4.0
奥さんと帰りを待っていた。
行きはちゃんの顔が見えなくて、ブライアンが少し悲しそうな顔をしたからと聞いて、行かない理由はなかった。
奥さんと管制室後ろで見守る。
落ちた、とわかった瞬間は絶望しかなかった。
奥さんはただただ泣いていた。
ちゃんは泣けず、ただただ奥さんを抱きしめていた。
抱きしめているようで自分自身を抱きしめていた。
葬儀は静かに執り行われた。
宇宙飛行士がたくさん来た。
いつかのツンツン頭の日々人も来ていた。
頭がボーっとした。
これが本当に現実なのかわからなかった。
それを表すように棺の中は空だった。
見送っていないのがこんな気持ちにさせているのか、ここ2日くらい眠れていないのがきているのかわからなかった。
葬儀のあと、なおも墓前でボーっとしているちゃんに、日々人は「大丈夫?」と静かに聞いてきた。
「ああ、うん」
「愛人も葬儀来るんだね」
「そうだね、隠し子だからね」
「都合よく使い分けるんだな」
と力なく笑った。
「日々人、私ね、宇宙飛行士になるよ」
だいぶ前から密かに勉強をしていて、日々人達がなった年は学生だったから無理だったけど、なろうと決めていた。
「本棚に宇宙の本が増えていくのにブライアンは何も言ってくれなかったから、本当はなって欲しくないのかもしれないけどね」
「でも、彼が見た景色が見たくなった」
とまで言い切ると、
日々人は「…本当に愛人なんだ」と笑った。
「そうだよ、愛人が宇宙まで追いかけてくるって超悪夢だよ」
そこまで言ってポロポロ涙が出てきた。
日々人は黙って背中をさすってくれた。
愛人以上にはなれないのはわかっていた。
なろうとも思っていなかった。
代わりに彼は「隠し子」という名の愛情をくれた。
だから子どもとして、彼と同じ道を選ぶのは自然なことだと思っていた。
23期生として宇宙飛行士になった。
墓前でブライアンに報告する。
ブライアンが亡くなったのが5年目の時、出会った時から7年経っていたから、ヒマワリを7本にした。
1番ライオンに近かったから。
20本くらい抱えて来たら、プロポーズでもしに来たかって笑われるね。
ブライアンの帰りが遅いから、宇宙まで迎えに行くよ。
すげぇ居心地いいところみたいだけど、会いたいよ。
少しだけ泣いて、小さくなっていたら、風が吹いた。
ブライアンに髪を撫でられた。
go all the way=(遠回しに)一線を越える
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