アイザック×アリア



白い髪の少年はその名が示す通り高い澄んだ声で鳴いた。
備え付けの寝台で、腰掛けるアイザックの上に跨がるようにして繋がっている。白い腕をアイザックの首に絡めるようにして腰を動かしていた。アリアが動くたびに湿った音と肉のぶつかる音が殺風景な部屋に響いた。
「ん、あっ、あ…!」
びくり、と跳ねてアリアが背を震わせる。唇かはくはくと震えた。本能で生きているからか、アリアは妙に感度が良かった。アイザックとするまでは経験がなかったそうだから、おそらくこれは生まれつきなのだろう。
何故アリアなのか、とふと思う。
一回りも離れた、どこの馬の骨とも知れない痩せた餓鬼だ。顔が綺麗だとは思うが、アイザックが知る誰よりも綺麗だという訳でもないし、特段好みというわけでもない。当然ながらセックスが上手いわけでもない。そもそもアイザックは処女が嫌いだ。面倒な上に妙な勘違いをされるからだ。だのに何故相手をしてやったのか。自分でも判然としない。
アリアは白い体をくねらせて、あいざっく、と舌足らずな声をあげた。形の良い頭の中は空なのではないかといつも思う。頭は足りていないが、飾りとしては上等な顔がついている。
「ん、あいざっく、」
また名を呼ぶと、アリアはアイザックの上でゆるゆると動いて見せた。ベッドで上体を起こしたアイザックの上でアリアが踊る。声変わりしたのかも怪しい高い声に縋るような響きが混ざる。
人種のせいか、彼の肌は抜けるように白い。どこの国の生まれかは判然としないが、北国の血を引いているのは確かだろう。髪の白さと相俟って、闇の中では浮いて見える。
ゆらゆらと揺らめく腰は細いが、筋肉がうっすらと付いていた。そうでなければ暗殺などできようはずがない。色々と足りない餓鬼ではあったが、暗殺の腕だけは素直に賞賛してやってもいい。
「あいざっく、」
「なんだ」
細い腕を縋るように伸ばしてきたので、くしゃりと乱暴に頭を撫でてやった。途端アリアは年齢より幼い顔に不平を浮かべる。
「アイザックのばか。子供扱いしないでよ」
馬鹿という罵りにため息をつきながらも(というのもアリアはアイザックが知る中で最も馬鹿なので)、アイザックはアリアを軽く睨みつけた。
「お前はどう見ても餓鬼だろうが」
アイザックは29になる。これはまだ17の子供であるから、子供扱いするなという方が無理なのだ。無論のこと稚児趣味はない。悪趣味だ、と言われれば――そう言った人間は殺すにしても――そうなのかもしれない。
「アイザックのいじわる」
ぶう、と頬を膨らませて不平を表すところもまだまだ餓鬼だ。アイザックが拾って育ててやったというのに、アリアは幼い上に頭が悪い。本能で動いているのだろう。どれだけ教えても学ぶことはなかった。例えば、アイザックなどを好きになるな、ということも。
唇を尖らせたまま、アリアはアイザックの首に手を回した。白い顔の中ではっきりと紅い唇が強請るように薄く開く。内心でため息をつきながら唇をふれさせてやると、アリアはアイザックの体に体重を預けてきた。
「ん、ふぁ、あいざっく、」
紅い目をとろけさせる顔はとても歴戦の殺し屋とは思えない。ちゅくちゅくと小さな舌をアイザックのそれに絡ませて、陶酔したように頬を緩ませている。さらさらと長い髪が頬に触れるとむず痒い感覚がした。
「ん、あいざっく、すき、」
白い頬を紅く染めてアリアは婉然と微笑んだ。それはもう何年も前から聞き続けた言葉だ。幼い時分から言い続けてもう何年になるのか。
「知ってる」
常のように告げると、アリアは泣きそうな顔をした。ぼくアイザックすきだよ、と涙混じりの声がいう。軽くため息をついて後ろ髪をくしゃくしゃとなでた。
アリアがアイザックを好いているのは刷り込みのようなものだと思う。気まぐれに薄汚れた子供を拾ったという、よくある話だ。ここまで懐かれるなどとは思っていなかったのだ。後悔をしているというわけでもないのだが。
「アイザックもすきっていって」
「気が向いたらな」
「…アイザックのばか」
すんすん泣きながらもアリアはアイザックから離れようとしない。全く、だからこいつは馬鹿だと言うのだ。大切にしてくれる人間など山ほどいるだろうに。
「俺が嫌なら他の奴を捜せ」
「やだ。僕にはアイザックしかいないもん。他のひとなんてどうでもいいよ」
母を待つ幼子や親鳥に疑いなくついて行く雛鳥を思わせる無垢さで、アリアはアイザックの瞳を見つめた。これだ。この目がなんとも嫌なのだ。裏切りと計略が蔓延る世界で無垢な信頼を投げられるのはひどく居心地が悪い。
一つ長いため息をついた。アイザックがアリアを選んだのではなく、アリアがアイザックを選んだのだろう。ふと思い浮かんだその考えに妙に得心がいって腹立たしい。
「…っあ!」
下から軽く揺さぶってやると紅い唇が悲鳴をあげる。細い腰を軽く掴みながらごりごりと中を突く。真白い喉が仰け反って、意味のない音を発した。
「あ、あいざっく、あいざっく、すき、すき…!」
「…そうか」
中を締め付けながら鳴くアリアにはこちらの声は届いていないに違いない。白く長い髪を振り乱して喘ぐたび、汗が胸を濡らした。
「あ、あ、そこきもちい、あいざっく、あ、っあ…!」
すがりついてくる白い体は汗に濡れている。幼い頬を紅潮させながらそれでも尚求めるように唇を開くので、ひとつ口付けを落とした。もっと、と強請る声に半ばあきれた。
(…全く、)
アリアは愚かな子供で、その上しつこくて面倒だ。アイザックの好みの真逆といっていい。それでも、アリアの想いに応えてやってもいいと思っている。自身が得をするというわけでもないのにだ。好きだの、愛だの恋という甘ったるい言葉を吐くつもりはさらさらないが。
結局のところ、それが答えなのだろうと思う。どこにでもあるありふれた、くだらない話だ。



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