ミヒャエルはいつも優しい。優しいのだけれど、たまにすごく意地悪だ。
特に夜は、実はサドなんじゃないかと思うくらい意地悪なことをする。しかもすごく嬉しそうに優しく笑いながらするから、どうしても憎めない。
でも、これはちょっと意地悪すぎるんじゃないだろうか。快感で白く染まりつつある頭の中で、ぼんやりと思う。身体が熱くてたまらない。
「ひあ、あ、は、」
気持ちよくて身体が震える。けれど僕のものは達することもできずに震えるだけだ。細いリボンで根本を縛られているせいだ。
ミヒャエルは屈み込んで、何度も何度も身体に口づけてくる。触れ方は優しいのだけれど、達することができなくて苦しい。これを解いてくれさえすれば達することができるのに。
「エリー、気持ちいいでしょ?」
「…っ、ん、」
ミヒャエルの声はあくまで優しい。優しいけれど、やっていることは結構えげつない。胸のてっぺんを撫でたり僕のものを擦りあげたりして快感を与えてくるくせに、こんな風にされていたら達することができないじゃないか。恨めしげに見上げても、ミヒャエルはにこにこ笑うばかりだ。
ちゅ、と僕の胸の頂にミヒャエルの唇が吸い付く。子供みたいだ、なんて思ったのは一瞬で、すぐに快感に塗りつぶされた。
「ん…っ!」
目をぎゅっと閉じながら体を震わせた僕を眺めながら、ミヒャエルはにこにこと幸せそうな笑みを浮かべた。本当に、性格が悪い。いつもは紳士ぶっているくせに本当はすごく意地悪だ。悪意がなさそうなのが更に質が悪い。僕を虐めてそんなに楽しいのだろうか。
「ミヒャエル、の、ばか、あっ、あっあっあ…!」
先端を抉られて、ぐちゃぐちゃと水音が響く。背中がぴんと張って震えた。口を閉じることができなくて、端からとろりと唾液が零れる。はしたないとは思うけれど、止めることなんてできない。快感ばかりが増幅されて、しかも終わりがこないのだ。このままだと、馬鹿になってしまうんじゃないだろうか。
「も、やだ、こんなのやだ、」
さすがにおかしい、と頭の中で激しい警鐘が鳴る。こんな風に僕のものを縛って何が楽しいのだろう。ミヒャエルに触れられるのが気持ちいいのは確かだけれど、熱を放出できないのがひどく苦しいのだ。
「エリー、いや?」
しゅんと落ち込んだように言われて、じっとミヒャエルを見上げる。うう、と小さくうめき声が漏れた。ミヒャエルが幸せそうならこれくらい我慢した方がいいだろうか。僕だって、その、ほんとはきもちいいし。
いいよ、と小さくつぶやくとミヒャエルが満面の笑みを浮かべた。優しく唇が落とされて、心臓がとくんと鳴る。ミヒャエルのわがままを聞いてやりたくなるのは、惚れた弱みというやつだろうか。足を開く大きな手をぼんやりと見つめる。
「よかった、それじゃいれるね」
「え、うそ、…ひぁああああ!」
ぐぷぐぷと僕の中に猛ったものが入ってくる。まさか、縛ったまま入れるだなんて。
「は、あ、…ふ、」
息を整えているうちに、全部中に入ったのが分かる。ミヒャエルのものは熱くて大きいけれど、今ではすんなりと入るようになった。初めの頃はこんなの入るんだろうか、なんて思っていたのに、僕の身体も随分と変えられてしまったらしい。どうせミヒャエルとしかしないのだからそれはいいのだけど。
僕の足を抱え上げながら、ずんずんとミヒャエルのものが奥を抉る。気持ちよくてたまらないのに、縛られているせいで達することができない。どんなに辛いかわかっているくせに、ミヒャエルはひどい。
「っん、これ、解いて、よ、」
「んー、もうちょっと待っててね」
「や、だ、あ、あああ…!」
身を捩りながら喘ぐ僕の体を優しく抱きしめて、ミヒャエルは中をかき回した。目の前がちかちかする。いきたいのにいけなくて、体がひどくせつなくて苦しい。
せめて彼の体から逃れようと暴れる太ももを、ミヒャエルの両手が掴んで引き寄せた。ぐちゅりと厭らしい音が聞こえる。意味のない声が唇から零れる。
「ひ、あ、やめ、やめて、も、ぼく、だめ、だめ、」
「…エリー、かわいい」
ミヒャエルが恍惚したような声で囁いた。低くはないけれど艶っぼい声、だ。反射的にきゅうと締め付けてしまう。
そっと落とされた口づけは優しい。目の前の身体に無我夢中ですがりついた。頭が真っ白に漂白されていく。
「ふ、あ、あ…?あ、へん、なんか、くる、」
こみ上げてきたものに恐怖を感じて、頭を振り乱して暴れた。いつもの感覚とは違う、何か、おかしな感覚がする。こわい、こんなのはへんだ。
大丈夫、と問いかける声が遠い。ぐらぐらと目の前が揺れる。ミヒャエルの肌が身体に触れて、汗がぽたりと落ちた。きゅっと爪を立ててしがみつきながら、あられもない声で叫んだ。
「あ、あ、あああ…っ!」
小さく声をあげながら呻いた。全身からすっかり力が抜けて、ひくん、と時折体が痙攣する。縛られたものからはとろとろと蜜が溢れる。
「な、に…?」
ひどく頭の中が混乱した。出してもないのに、今の感覚は達した時の感覚だ。困惑でいっぱいの僕の頬を、ミヒャエルはにこにこ幸せそうに撫でる。すきだよ、と熱っぽく囁きながら大きな体に抱きしめられると、鼓動が高鳴った。
「んぁ、ああ…っ!」
ゆっくり時間をかけて、ミヒャエルの熱いものが僕の中から出ていった。それだけでも気持ちよくて、変になってしまいそうだ。くったりと体を横たえたまま荒い息をしている間、ミヒャエルは僕の髪を愛しげに撫でていた。
――いつもは、ほんとに優しいのに。
ミヒャエルが意地悪なのは夜だけで、いつもは過剰なくらいに優しい。けれど夜だけはあまり僕の言うことも聞いてくれないしちょっとひどいことも、する。こういうことをするのはミヒャエルが初めてだから、こんなものなのかなとも思うのだけど。
「あ、ふぁっ!?」
考え事が突然の刺激に遮断された。ちゅう、とミヒャエルが僕のものを口に含んでいた。縛られたままのものがびくびくと震える。つう、と裏筋を舐められて抱えられた足がばたついた。
「や、いや、とって、よ…!」
「ん…エリー、きもちい?」
「そ、なの、いいから、それ、とって、あっあ、ああ…!」
また、体が痙攣する。熱い、熱い熱い。苦しくて気持ちよくて、荒い息が漏れる。とろとろ蜜を零しながらいくなんて、女の子になったみたいだ。
ミヒャエルは優しく笑って、すきだよ、と囁いた。大きな手が僕の体を這い回って、そのたび快楽で神経が焼き切れそうになる。もう何度達したのかもよくわからない。
「ミ、ヒャエル、これ、とって…っ!」
「うーん、君がそんなに嫌なら」
ミヒャエルは少し困ったみたいに優しく笑うと、リボンを解いた。途端に、僕のものがびくんと精を吐き出す。息が酷く乱れて、このまま眠ってしまいたいと思った。けれど、ミヒャエルは僕を寝かせるつもりはないらしい。優しく唇を奪われて、心地良い疲労に包まれた身体に甘い痺れが走る。
「は、…ふ、」
「大丈夫?」
ミヒャエルの問いかけに、首を動かすだけで答える。本当は少し疲れているけれど、まだ足りないような気もしている。
おずおずと足を開くと、ミヒャエルのものが押し当てられた。先程とは違って、少しずつ少しずつ侵入してくる。きゅうと胸が締め付けられて、期待と不安を感じる。
「ん、ん…っ、ミヒャエル、好き、だよ」
「うん、僕も大好き」
とろけるような笑顔を浮かべて、ミヒャエルが囁く。この笑顔が卑怯だ。こんなに愛しげに笑うから、僕はミヒャエルのすることを許してしまうのだ。
ミヒャエルは奥を抉りながら、僕の身体のあちこちに唇が落とした。気持ちいいところは全部知られているから、すぐ変になってしまいそうになる。僕より経験があるんじゃないか、なんていう嫉妬はすぐに快感にかき消されて、考える余裕さえなくなる。
「ミヒャエル、ミヒャエル…っ!」
訳が分からなくて、ミヒャエルの体利必死にしがみついた。目の前が涙で滲んで頭がぼうっとして、何も分からない。大きな体に優しく抱かれていると心臓が激しい音を立てた。
すき、だ。ミヒャエルのことがとてもすきだ。
はしたない声が出るのが止められない。狂ったように喘ぐ僕の身体の中に熱い熱いものが溢れて、とろりと溶けていく錯覚を覚えた。




はあ、と大きく息を吐いた。
僕の寝ていたベッドはきちんと整えられていて、寝ている間に何もかもやってくれたんだなと思う。最近は体力もついてきたと思っていたけれど、ミヒャエルとすると時折ひどく疲れるのだ。
「やっぱり、ちょっと変な気がする…」
目隠ししたり縛ったりするのは、ふつうにやることなんだろうか。ミヒャエルとしかしたことがないから、よくわからない。サドなんじゃないかと思うこともあるけれど、殴られたりするわけじゃないし。
「エリー、紅茶煎れたよー」
キッチンからあかるい声が聞こえて、今度こそしっかり目を開ける。片づけをしてくれた上にこうした気遣いもしてくれて、いい恋人のはずだ。たまに少しもやもやするけれども。
うん、と返事をしてベッドから身体を起こす。腰は少し痛いけれど別に怪我だってしていないし、良好な関係、のはずだ。なんだかんだ言ってもミヒャエルとするのは気持ちいいし、今はそれでもいいかな、と思った。



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