少女・立花のお話
とりあえず。
山田先生にどうしてこうも問題ばっかり持ってくるんだ、と言わんばかりに見られたが、一応調べてみてくれるとの事で少し落ち着いた。
まったくもって厄介な家に生まれてきたな、俺。
とりあえず部屋に帰ろうと廊下を歩いていたら同じ忍たま六年の女子である立花に遭遇した。
「名前」
「お、立花」
「お前、結婚するというのは本当か?」
嫌な事はさっさと忘れてしまおうと気持ちを切り替えてさわやかに挨拶しようとしたのに意外な人から嫌なネタを振られた。
というか、
「なんでそれ知ってんだ?」
「何でも、山田先生の部屋で話していたそうじゃないか。話す内容によって場所を考えろ。どこで誰が聞いているかわからないぞ」
うわ、あれ聞かれてたのか!
あの時ホント焦ってて周りとか気にする余裕なかったんだよな。
思わず手を額にあててため息をつけば、立花がくすりと笑った。
「…で?結婚するのか?」
「…答えなきゃ駄目?」
わざわざ、この私が聞いているんだ、答えない訳がないよな。
なんでかな、にこりと笑う立花は何も言っていないけれど、明らかに目でそう言っていた。
仕方ないので、とりあえず仕来たりやら何やらを話していけば、暫く考えていた立花は「で、結婚するのか?」と再び聞いてきた。
「しません。というかそういう相手がいません!」
立花は俺に女っ気がないのよーく知ってるだろう!
休日だって何だかんだ言って皆で一緒にいるんだから!
「相手など探そうと思えばいくらでもいるだろう」
「何処に!」
まさか!あの、くのいち教室まで行けとな!?
あの忍たまに全く容赦のないくのいち教室に婚活しに行けと!?
冗談じゃないよ、俺まだ死にたくない!
「例えば、…私とか」
「…え?」
思わず立花の顔を凝視したら何故か目をそらされた。
心持ち頬が赤いような気がしなくもない。
あれ、何この雰囲気?
「いや、だって立花…え?」
「…何だ、何か問題でもあるか?」
「いやいやいやいや、大有でしょう」
少しだけむっとしている立花に壊れた玩具の如く首を横に振る。
何言ってるの立花!どうしちゃったの!
まさかまさか立花、俺の事…
「さっさと結婚しなければ、死ぬのだろう?」
「………あ、」
どうしよう、すごい恥ずかしい。
もしかしたら立花俺の事好きだったの!?みたいな勘違いする所だった。
「ありがとう、立花」
そう言えば立花は漸く此方を見てきたので笑った。
よかった、立花は大事な級友だもんな。
変な勘違いして後で気まずくならなくてよかった!
「俺の為にそこまで言ってくれてありがとな。でも、いくら結婚しないと死ぬからって、立花がそこまで言う必要はないよ」
でも、そんな風に言ってくれるなんて、俺とってもいい友達持ったな!友情最高!
と笑えば、立花の雰囲気が一転した。
え、何この寒い雰囲気。
「ちょっと待て」
「え」
「お前は私が唯の友情の為に言ったと思っているのか?」
「え、…違うの?」
「お前は、本当に男女間の友情などを信じているのか?」
「え、…え?」
「…もう、いい。」
いつもの様な不敵な笑みなんかじゃなくて、少しだけ傷ついたような顔をした立花がそう言って背を向け去っていくのをただただ見る事しか俺にはできなかった。
(え、何、どういうこと?)
(あれって、やっぱりそういう意味だったの!?)
隔靴掻痒(かっかそうよう):うまくいかなくて、もどかしいさま。(この鈍感男が!)
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