▽もしも雷蔵が動いたら、な雷蔵視点のお話。





『雷蔵、大好きだ!』



いつもそう言って笑う君を何度汚したいと思ったことだろう。
こんな浅ましい僕の事を、僕の心の内を知ってしまったら、それでも君は僕を好きだと言ってくれるかな?



前にハチに雷蔵は名前が好きなんだよな?って聞かれことがある。

その時はどうしたかな…確か曖昧に笑うことしかできなくて困ってしまったんだと思う。
だって、もしそこで認めてしまったら、なんだか後戻りできなくなるような気がしたから。

あの頃の自分をなんだか懐かしく思った。
だってあの頃は笑って曖昧にして自分自身を誤魔化して、それでなんとかやり過ごすことができたけれど、最近は、今は、駄目なんだ。


自分を見るの顔が離れない、言葉を紡ぐその唇から目をそらせない。
(どうしよう、どうしよう)


今日はひときわ明るい月夜のせいだからかもしれない。
こんなことばかり考えてしまうのは。

(早く三郎、帰ってこないかな)


同室の三郎は少し前に用事があるからと部屋を出て行ったきり帰ってくるそぶりがまるで見えない。

(はやく、早く帰ってきて。そうすれば、まだ、大丈夫なはず…)



「雷蔵?」


ドキリとした。
入っていいか?と声がして部屋の入り口を見ると、そっと静かに戸が開かれる。
お邪魔します、と名前が入ってきた。



(どうしよう、どうしよう)



今まで考えていた事がすべてごちゃ混ぜになって頭がぐらぐらする。
もしかして、バレてしまった?なんてあり得ないことまで考える。



そんな自分を気にもせず名前がゆっくりと部屋に入ってきた。開いた戸から覗く月はとても丸くて明るくて、そのあまりの明るさにクラリと目眩がする。
そして、開いた時と同様に静かに戸を閉められて月が隠れると同時に、頭のどこかでカチリと音がした。


戸を閉めこちらに近づいた名前は、こちらを見るなり慌てた様に駆け寄ってきた。


「雷蔵!大丈夫か?なんだか真っ青だ…具合悪い?」


心配そうに横から顔を覗き込んでくる。
そんなに青い顔をしているかな?
心配そうに近づく顔にさっきまでのドキドキが嘘のように静まり返った。



そっと腕を掴む。
名前は不思議な顔をしながらも、やはり僕を心配してか何も言わない。
腕を掴むなり何も反応しない僕に、名前はさらに顔を近づけた。


それと同時に掴んでいた腕を少し力を入れて引き寄せる。
その瞬間、僕を覗いていた顔がさらに近づいて頬に息がかかった。

髪の毛からふんわりと香る、石鹸のにおい。




――どうしよう、どうしよう

少し前まで真剣に悩んでいた自分をふと笑ってしまった。
だってわかっていたじゃないか、いつかこうなってしまうんじゃないかって。



「…らいぞう?」


どうした?と、何が何だかわからない顔をしている。
そんな顔もかわいく見えて仕方がない。

しっかりと腕を掴んだまま肩を押して床に押し倒すと意外とあっさりと倒れてくれた。
床に散らばったの黒くてサラサラの髪がとても綺麗で思わず指で摘んで口付ける。



君は優しいから、受け入れてくれるかな?
それとも思いっきり拒絶して、三郎にするみたいに蔑んで、僕の事を嫌ってしまうかな。
でも、もうどうしようもない。

だって止まらない。

言いたくて言いたくて仕方がないんだ。
ずっとずっと前から思っていたこと、言ってしまったら、きっと戻れない。


髪を摘んでいた指を離すとそのままの頬をそっと撫でると、最後の合図とともにその唇を塞いだ。








その一線を越える言の葉


「名前、だいすきだよ」



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