幼馴染と
自分は結構寝覚めの良い方である。
なので、朝日の差し込む部屋でスッキリと目を覚まして、同室の友人達を起こすのが当たり前となっていた。
いつものように布団を整えて寝巻から着替えると友人その1こと中在家長次を起こした。
彼もどちらかというと寝覚めの良い方なので、一度起こせばぼんやりしながらももそもそと支度を始める。
それを見届けると…さて、次が問題だ。
俺の仕事はここからが本番。
友人その2こと、周りからは暴君なんて呼ばれている幼馴染の七松小平太を起こすのが朝一の重大な任務なのである。
問題の幼馴染を見てみると、寝巻は乱れ気味で布団を蹴飛ばして大きな口をあけて涎がたらり、なんとも幸せそうだ。
昨夜も毎度のこと、いけいけどんどん!と鍛錬したんであろうその顔には泥が付いている。
塹壕堀りでもしたのか、と思っていると外から聞きなれた友人の叫び声らしきものが聞こえてきて、不運委員長というなんともありがたくもない別名を持つ友人その3こと善法寺伊作の一日も始まりを告げたのが分かった。
ついでに「伊作…!」と不運な彼の同室でもある友人その4こと食満留三郎の声も聞こえてきた。
ある意味日常茶飯事とも言える相変わらずの伊作の不運さと、それを確実に貰い不運している留三郎に思わず心の中で手を合わせてしまった。
今度団子でも奢ってやろう。
とりあえず標的に目を向け「小平太、朝だ。起きろ」と揺さぶりながら声をかける。
これで起きたら奇跡、つまりはめったに起きないし起こらない。
やっぱりというか、むにゃむにゃと言葉にならない寝言を発しながら寝返りをうつだけ。
仕方ない、と気合いを入れる意味でため息を一つついて、アホ面している寝顔の耳元で囁く。
「小平太、この間小平太が食べたいと言っていた団子屋…」
言うな否や、バチッっと音が出そうな程に勢いよく目を開けると「名前っ!行ってくれるのか!」と嬉しそうに叫んでこちらを振り返った。その顔にはよだれの跡がばっちりだ。
ある意味本能で生きてるようなやつにはモノで釣るのが一番てっとり早い。
長年の付き合いで、それを良く熟知している俺は「小平太が今すぐ起きて支度したらな」あとよだれの跡ついてるぞ、と告げると口癖でもあるいけいけどんどーん!という掛け声とともにバタバタと支度をし出した。
あまりの動きの良さにこいつは実は起きてたんじゃないかとも思うのだが、一年生の頃に一度だけ、丁度用事があり学園にいなかった俺の代わりに長次達が小平太を起こそうとしたことがあった。
その時は何をしても何を言っても反応すら返さずにまったく起きなかったらしく、幾許かの格闘の末に寝ている小平太を無理やり(人形のように)着せかえて引き摺りながら移動したらしい。
学園に戻って俺が最初に見た長次の満面の笑みとそれに怯える友人達の姿はとても簡単には忘れられない思い出だ。
みんなちょっとボロボロな姿になんでか俺が申し訳なかった。
こうして小平太を起こせるのは、小さい頃から付き合いがあり何故か唯一言う事を聞く俺だけだと毎朝起こす任務を与えられ早六年。時間が経つのは本当に早い。
物思いに耽っている俺を支度を終えたらしい長次が「…いつもご苦労」と声をかけてきたので苦笑いで返しておいた。
呑気に鼻歌を口ずさんでいるご機嫌な幼馴染の布団を畳んでやる。
(今度の休日、今日の詫びも兼ねて伊作と留三郎の分も買ってきてやろうかな)
なんて考えていたら、支度を終えたらしい小平太がこちらを振り向いた。
おはよう、と笑う君の顔思い出したように言った小平太の口元にはまだ涎の跡が残ってて笑ってしまった。
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