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青峰  




「火神大我…だろ?」
突如ストリートコートに現れた不遜の塊みたいな男に、火神は敵意剥き出しで答えた。
「誰だ、テメー」
鋭い眼光にもまったく怯むことなく、男はにやりと口端を上げる。
「まー、名前くらいは言ってやるよ。…青峰大輝、だ」
「!」
キセキの世代、青峰大輝。つい先日耳にしたばかりの名前に火神は驚き、そしておかしなことに気が付いた。
―――言葉が通じている。
キセキのやつらは全員漏れなく天罰を受けたと聞く。その分かたれた言語の難易度は、才能の開花度合いによるのだと、黒子は言った。
ならばこいつは黄瀬以下だというのか。火神は青峰を見て、すぐにその考えを打ち消した。
違う。こいつはヤバいと勘が告げている。
ならばこの状況をどう説明すれば良いのか。悩む火神に青峰は、言った。
「【ピ―――】しろよ」
たっぷり瞬き3回分の時間を費やしてから、ようやく火神は声を発した。
「……は?」
「だから、【ピ―――】しろっつってんだよ」
火神は無表情のままで、トントン、と己の耳を叩いた。
別に耳がおかしくなったということは無い。でも確かに、妙な音が聞こえる。好奇心と背徳感を煽るそれは、たまに深夜番組とかで耳にする放送規制音に違いなかった。
大事な部分が聞こえない。火神は、青峰が受けた天罰を理解した。だが、全く言葉が通じていない訳ではないのだ。他の部分から推測することは、容易にできる。
「さっさと【ピ―――】しろよ。試してやっから」
試す?何を試すというのか。いや、ここはストリートコートで自分たちはバスケ選手だ。バスケだろ。バスケだよな。バスケだと言ってくださいマジで。
「あ、あの…」
「んだよ。お前の意見とか聞いてねーよ。やれっつったらやるんだよ」
何をやるんだ。そして何故上着を脱ぐんだ。
青峰が一歩近付けば、火神は全力で後退った。年甲斐もなく、遠い地にいる母親に泣きつきたい気分だった。大我はもう、子供じゃいられなくなるかもしれない。
「火神…」
本能が警告している。こいつはヤバい。こいつは―――
「【ピ―――】」
―――ヤる奴だ。


2014/5/24

翌日の
火「青峰と、やった」
黒「!」
に続きます。


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