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お母さん、あなたの娘の苗字名前は今日、目つきも悪く口調が荒い男に、生まれて初めて一目惚れをしたかもしれません。





ある春のお昼すぎ、最寄の駅より少し離れた路地裏で、苗字名前は困っていた。それは、彼女の腕を掴んでいる手が原因である。

「姉ちゃんよ〜、ちょっとぐれぇいいじゃねーか、こんな時間にこんな場所にいるぐらいなんだから、暇なんだろ?」
そう言って、男はニヤニヤと笑いながら、突然私の腕を掴んで離さない。周りの誰かに助けを求めようにも、平日の昼下がりに駅から離れた路地裏を通るような人は、ほとんどいなかった。


唐突のことに怯んでしまい、知らない男性に腕を掴まれていることに恐怖を感じたが、なんとか恐怖心を悟られないよう、震えを隠すように声を絞り出した。


「こ、困ります。暇じゃないので、あの、失礼します」

そう言って私は腕を振り切って、表通りにまで出ようとしたがその足が動くことはなかった。



「なんでだよ、ちょっとあっちのカラオケ行こうぜ」

そう言った男の力は先程よりも強まり、私の腕を思ったよりも締め付ける。
痛い、嫌だ、気持ち悪い、そう思ったのに語気が強まった男の物言いに私の恐怖心はピークに達し、言葉を発することができなかった。


その間にも男は私の腕を引き、路地裏のさらに奥へと進もうとする。
足にあまり力が入らなかったが、このままでは引きずられていくだけなので、渾身の力を振り絞り抵抗するが、男の力にかなうはずがなかった。


そんなときだった。

「何をしている」

私の背後から、鋭いけれど、どこか芯の通るような声が聞こえてきた。



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