甘い甘い幸せの味
”あと10分で着く”そう彼女にLIMEを入れた万里は、閑静な住宅外を目指して歩みを進めていた。

昼前に普段通らない場所を歩いている理由は、付き合って半年になる彼女、同じクラスの苗字名前から誕生日を祝いたいから家に来てくれと言われているからだった。

秋組の計画を偶然悟ってしまった万里は、太一から堂々と誕生日を盛大に祝うから待っていてくれ、と言われているので夜には寮でも誕生日会が開催されるのだろう。それを見越して今日のタイムリミットは夕方までだと、あらかじめ彼女に伝えてある。それに名前も納得済みだ。

…ピンポーン

インターホンを押せば中からドタバタと音がして勢いよく名前が顔を出す。

「来てくれてありがとう、万里くん」
今日はお母さんもお父さんもちょうど出かけてるから入って入って、と言われるがままに中に入るとほのかに甘い香りが鼻をくすぐる。
そうか今日名前の親いねぇのか、と違う方向に思考が傾きそうになったので慌ててふと頭によぎったものを振り払う。

「うまそうな匂いだな」
そう言うと彼女は嬉しそうに笑った。
「朝からケーキ焼いてたの、一応甘すぎないようにしたんだけど、おやつに食べよ?」

見上げながらそう言う名前に思わず可愛い、と口を滑らしそうになったのは惚れた弱みなのだから仕方ないだろう。


名前の部屋でお昼を食べたあと、お皿を片付けて戻ってきた名前の手に小さい紙袋が握られていた。
「万里くん、誕生日おめでとう。これ好きかわからないけど、見た瞬間絶対似合うと思ったの」
「おー、さんきゅ。開けていいか?」
そう聞くとこくんと頷く名前

プレゼントが用意されていないとは考えにくかったが、実際に自分が惚れ込んだ人からもらうプレゼントはとても嬉しいものだった。
プレゼントの包みを開けると出てきたのはブラックダイヤの片耳ピアス。

「さんきゅーな、すっげぇ嬉しい」
こちらを伺いながら心配そうな目をする名前に微笑みながら言うと、名前は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに安堵の表情を見せた。
その顔が可愛くて、思わず抱きしめると名前もおずおずとした様子で俺の背中に手を回してくる。
「…名前、好きだ。最高の誕生日だわ」
「万里くん、好き」
名前の唇に自身の唇を重ねる。

何度も角度を変え名前の柔らかさを堪能していると、ちゅっと一つのリップ音が聞こえようやく彼女の唇から離れる。
「こうやってキスできるのも幸せだよ」
そう言う彼女が可愛くて、ケーキ食べようねと言う名前を無視して俺は再び唇を重ねた。


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