伸ばした羽の休みどころ
今日、寮の自室に久しぶりに彼女が来る。
たとえそうであっても、休日の茅ヶ崎至の行動はいつもと変わらず、来客のために部屋を綺麗にするわけもなく、朝からPCに向き合いひたすら周回を繰り返していた。
まぁ掃除は来てからやってもらえるでしょ、それよりも今夜のイベのために素材集めの方が大切。
本当ならいつものように、同じ寮に住むNEOこと摂津万里とともに共闘して、素材を無限回収するはずが、彼はあいにく朝から出かけていた。
もともと共闘する約束だったが、彼の方に急用が出来たらしい。
万里のやつありえねー、と一人ごねりながらゲーム内の体力だけを消費していく。

もう何週目かも分からず体力がなくなりかけた頃、LIMEに一件の通知が入る。それは来客予定の彼女からだった。
確認すればもうすぐ着くそうで、了解の返事をし、彼女が来るまでに体力を0にしようと考え、至はまた画面に向き合う。

コンコン、
周回ももう終わりが近づいた頃、扉のノック音とともに「至?着いたよ」という声が聞こえる。
「今大事なとこで手離せないから入ってきて」そう告げると静かに扉の開く音が聞こえ、人の気配がするのを感じた。至の視線は相変わらず画面のままで、来客の方に見向きもしない。
「ゲームあとちょいだから待ってて」
もはやそんなセリフにも慣れてしまったと感じるぐらい、至との付き合いは長い。
部屋の惨状を見回して、これは今日も掃除コースだな、と考えていたら至がこちらを向いた。どうやら一息ついたようだ

「おはよー名前」
「おはよ、ゲーム終わったならまず掃除ね、今日は晴れてるしこの辺のゴミ全部片付けよう。窓開けたら気持ちいいよ」
予想していた通り掃除から始まる。体力消費しといて正解だったわ、と考えながらりょーと軽く返事をして、双方掃除に取り掛かる。
周囲から見たらあっさりしていると思われそうだが、もう何年もの付き合いになるので自分たちの中ではこれが普通だった。

「ふぅ……」
彼女が満足げに息をつく。どうやら名前の方も終わったらしい。
二人で片付けたので、予想よりも早く掃除が終わった。まだお昼には早く、早く終わっちゃったしなにしよう、と彼女がつぶやくのを聞きながら、俺はベッドに寝転がる。
掃除といっても、しゃがんだり立ったりを繰り返したせいで、少し疲れてしまった。
「至?」突然ベッドに沈んだ俺を見て、名前が不思議そうな顔で近寄ってくる。

「え、きゃっ、…ちょっと、なにするのよ」
寝転がりながら名前の腕を突然引くと、俺の上に乗る形になった彼女が不満の声をあげる。その問に答えることなく、名前を抱きしめると名前も何も言わなくなり俺の胸に顔をうずめて甘えてくる。
長い付き合いのぶん普段はあっさりしているが、時折見せるこういう仕草がたまらなく可愛いのだ。

「たまにはこういうのもいいね」
そう言った俺の声が、自分で思っていたよりも柔らかいことに気づき驚く。
「ん、そうだね。幸せ」
名前は、至から離れることを惜しむように抱きしめる力を強くすると、それに答えるように、至も数センチの隙間も埋めるかのように名前を自分の方に引き寄せる。

名前が隣にいて、自分にしがみついてくるこの現状が何よりも幸せだと感じる。今なら今夜から始まるイベ限定ガチャも当たる気がした。