04 決意


「ミスディレクションって、記憶の捏造まですんのか?」
「いえ…」
学校の廊下に立ち並んだ青峰と黒子は、人の行き交う教室を見遣りながら、重々しく言葉を交わした。
「黄瀬くんのあれはミスディレクションなんかではなく、病的なまでの現実逃避ですね。このままでは青峰くんは、文字通り雲の上の存在になってしまいます」
「もうなってるわ」
黒子は凪いだ水色の瞳で、青峰を見上げた。
「それでもまだ、痩せる気にはなりませんか?」
「………」
青峰は迷っていた。
もちろん、痩せたい気持ちが無いわけではない。だが、考えなしに不要なものを溜め込んでしまったこの体を戻すには、並々ならぬ努力が必要になるのだろう。生来の無精さがどうしても、素直に頷くことを拒んでいた。
「あれ、黒子っちだ」
教室から顔を出した黄瀬は、黒子を見て黒子の名前だけを呼んで、こちらに近づいてきた。
「こんなとこでなにしてんスか?」
「…青峰くんのことですが」
「青峰っち?」
何よりも大切なはずの名前を口にして、黄瀬はあはは、と明るく笑った。
「そんなものは空想上の…」
「痩せる!」
青峰の決意は、早かった。
雲の上どころではない。もう自分は大気圏を突破してしまっている。早く地球に帰らねば、黄瀬は『青峰っち』すら忘れてしまうのだろう。
「よくぞ言いました」
黒子は鷹揚に頷くと、右の拳を差し出した。
「やりましょう。跳べないブタは、ただのブタです」
「………ああ」
青峰もまた固い決意を握りしめ、黒子と拳を合わせたのだった。

2014/5/29




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