黄瀬と青峰と青峰さん


「ただいま」
「おかえり。遠征お疲れさま」
黄瀬の出迎えに、青峰は触れるだけのキスで応えた。
はにかむ黄瀬に、会えなかった分だけ愛しさが募る。とりあえず押し倒すか、という欲望にまみれた考えは、あるはずのない第3者の視線で遮られた。
「…ねこ?」
「ああ、うん」
黄瀬はしゃがむと、黒猫を抱き上げて見せた。
「青峰さんっス」
「なんだよその名前。嫌がらせか」
「この子を見たときに、青峰さんしかないと思ったんスよ」
黒い毛並みに青い目。黄瀬の考えは短絡的だ。
触れようと伸ばした青峰の手は、ぺちりと黒猫にはたかれた。
「って…」
「青峰さん!青峰っちと仲良くしなきゃ駄目っスよ!」
「ややこしいわ」
これではどちらを呼んでいるのやら分からない。けれど黄瀬は、胸を張って言った。
「大丈夫。青峰っちは青峰っち、青峰さんは青峰さんじゃないスか」
「大丈夫じゃねぇよ。丸かぶりだろうが」
真っ向から否定してやれば、黄瀬は不満気に口を尖らせる。
「青峰っちは我が儘っスねー」
にゃー、と同調するように猫が鳴く。
しばらく離れている間に、我が家はすっかりアウェイの地となってしまった。青峰は小さく息を吐くと、最善の妥協策を提示した。
「じゃあ、名前で呼べよ」
黄瀬はきょとんと瞬いて、腕の中の黒猫を見る。
「…名前って言われても、青峰さんは青峰さんで名前なんて無いし…」
「わざとだろ、てめぇ」
青峰は黄瀬の顎を持ち上げて、逃げた視線を捕まえた。
「俺を、名前で呼べって言ってんだよ」
せっかく合わせた目線はまたしても外される。黄瀬は弱々しい声で、抵抗してみせた。
「青峰っちを名前で呼ぶなんてそんな、恐れ多い…」
「涼太」
弾かれたように黄瀬が顔を上げる。真正面から目が合って、みるみるうちに彼は耳まで真っ赤になった。
猫は力の抜けた腕からするりと抜け出ると、悠々とリビングを渡り、ソファーに飛び乗る。
「…大輝」
主人たちから名字を奪った黒猫は、お気に入りのクッションの上で、満足そうに丸くなった。

fin

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