か た こ い
(明本淳)



「他に好きな子いるから」

この台詞を何回繰り返しただろう。

嘘ではないんだけど、その好きな子との恋が実ることはもうないのだろうと薄々気付いている。

何せ、10年越しの片想いなのだから。

「淳の好きな人って誰なの?」

そうやって無神経に聞いてくるお前だよ、馬鹿。

内心悪態をつきながら、オレは黙って目を逸らす。

聡子は幼なじみであるせいか、こういうかなり深いことを日常的に軽々しく聞いてくる。

「普先輩に聞いても知らないって言うし」

「お前、アマネ先輩にまで聞いたのかよ」

「うん、だって私には絶対教えてくれないでしょ?」

「アマネ先輩にも言わねぇよ」

「えー、どうして? 仲いいじゃない」

「ダチにも言わねぇのにアマネ先輩に言うかっつの」

これはアマネ先輩が口が軽いわけではなく、好きなら早く告白しちまえ、と鬱陶しいからだ。

告白できるんならとっくの昔にやっている。

何故できないのかというと、怖いからだ。振られることはもちろんだが、振られた後、一気に心の距離だけが離れ、一方でこの近すぎる物理的距離が変わらないという事態が、非常に恐ろしいのだ。

単なるクラスメイトならまだいい。こいつとは親同士が親しい上に姉貴同士まで友人という、オレごときでは切れない関係がある。そのため、この状態で聡子とぎくしゃくするのはかなり厳しいのだった。

「大体、好きなやつなんていねぇし」

オレはさらりと言い放つ。嘘だとわかっているのは自分だけ。

「そういうからみんなにも言ってるのに、好きな子がいる、って断ってるんでしょ? わたし、嘘つき呼ばわりされるんだからね」

聡子は不機嫌そうにそう言った。

女って何でこう、好きな人が誰だとかって友人に話したがるんだろ。

牽制じゃないかな、ってひびきは言ってたけど、本当だったらかなり迷惑な話だ。まぁ、オレの好きなこいつも、やっぱりその女ってやつなのだが。

「好きな子がいる、って言うのがあっちも諦めやすくて一番いいんだよ。顔や性格が嫌なんて言えねぇし、彼女いらないとかいっても納得しづらいだろ」

「あぁ、淳でも一応、そういうこと考えるんだね」

「一応ってなんだよ」

「ううん、優しいね」

さりげない誉め言葉と屈託のない笑顔。

そんな聡子の反応に、本音を出すのはやめた。経験上それが一番面倒がないというだけなのだが。

こうしてふとした拍子に感じる気持ちを押し殺して、オレは日々生活している。

もちろん楽しくもないわけだが、今聡子の一番近くにいるのがオレだという事実が唯一の救いとなっている。



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