「お前、聡子のこと好きだろ」

あまりに突然言われたもんだから、顔をしかめて「はぁ?」と言うのが精一杯だった。

アマネ先輩はその態度が気に障ったようで、「殴るぞ」と言うが早いか蹴りを入れてきた。

おかしなフェイントかけて攻撃しないでくださいよてかオレ何もしてねぇし突然蹴るとかひどくないっすか! と一息で言ったが、アマネ先輩は一切合切無視して、案の定「告白しちまえ」とオレに命令した。

「聡子もお前のことが好きだと思うぜ」

本当ならありがたいことだが、全然そんな気配は感じない。そう思える強い要因があれば、既に告白している。

「アマネ先輩の言うこと、あてになんないですもん」

「綾も言ってたし」

「リョー先輩はどうせ適当でしょ。相づち打った程度なんじゃないすか?」

「あぁ、そう言われりゃそうかも」

あっさりなっとくするアマネ先輩。

結局二人とも根拠なんてないんじゃねぇか、ってオレが着替えようとした時。

「でも俺の勘って当たるぜ、恋愛関係は」

最後を強調して、アマネ先輩は言った。

振り返ると、いつもの自信満々な態度で「いけるって、マジで」とまで言われた。

アマネ先輩の無駄な自信は言葉に説得力を付ける魔法だと思う。

そんな魔法に引っ掛かって、あぁもしかしたらいけるかも、なんて、責任感のない言葉に簡単にのせられたオレが悪かったのだ。

「オレの好きなやつ、お前なんだけど」

それを聞いた聡子は、面食らった顔をしていた。

当然だ。そんな素振りを見せないように徹底してきたし、幼なじみという関係のせいでいつも悪態をついたりからかったりするばかりで、優しい言葉のひとつもかけたことがないのだから。

「お前のことが好きなんだよ。だから誰とも付き合わなかったの、わかる?」

聡子は少しずつ視線を落とし、最後には今までにないくらい他人行儀に「ごめんなさい」と頭を下げた。

その瞬間、すぐさま後悔した。オレは今、10年以上もかけて作り上げた関係をあっさり壊したのだ。

「好きな人、いるの」

理由なんて聞いてもいないのに、聡子は教えてくれた。

どうしたらいいのかわからなくなってる自分に向かって、落ち着け、落ち着け、と繰り返す。

「あぁ、そう。誰?」

いつもの調子を崩さないように意識しながら言葉を紡ぐ。

「秘密」

「マジでいんの?」

「いるわよ! わたし、淳みたいに嘘つかないもん」

むきになって言う聡子はいつになくそわそわしていて、視線をオレに向けようとしない。

「じゃあ、早く振られてこいよ」

なんでこんな毒づいたのかというと、そこに深い理由などなく、単に開き直っただけだった。きっと昨日までの関係には二度と戻れないだろうから。どうせ壊れてしまったのなら、ボロボロになるまで砕いてやろう、と。

「何よ、その振られるのが前提みたいな言い方」

「誰だか知らねぇから前提にはしてねぇけど、俺は振られて欲しいからさ」

素直な気持ちと醜い嫉妬が入り混じって、おかしな文言になっている。

「さっさと振られて、お前みたいな奴と付き合えるのは俺だけだって早く気付け」

こんなことを言って好きになってもらえるわけもないけれど、こんな風な態度で今まで一緒にいたのだ。嫌われるのならとっくの昔に嫌われてるはずだ。

だから、望みさえなくなればオレに泣き付いてくるんじゃないか、って、そんな風な想いが僅かながら残っていた。

けれど、淡い期待を繋いだ細い糸は、女神によって呆気なく切り落とされる。

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とっぷ りすと
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