Shape of My Wings | ナノ



それからというもの、天使と悪魔は一緒にいることが多くなった。
大抵は、レインが奇襲を仕掛けてくることから始まっている。彼も本気でないとはいえ、リーリエの気が少しでも緩めば致命傷を受けるだろう。しかし、攻撃の手を止める気はないらしい。悪魔らしく戦闘本能に従っているのか、それともここへ来る言い訳を作りたいだけなのか…それはレイン本人にも分からない事だった。

「やるじゃねえか」
斧を片手にニヤリと笑うレインを、呆れたような目で見るリーリエ。構えた弓から矢が放たれることはなく、彼女は静かに腕を下ろした。
「毎日のように…飽きませんね、意地悪な悪魔さん」
「狩る相手がいねーと腕が鈍るからな」
彼はそう言うと、リーリエに石の欠片のようなものを投げて寄越した。身体が温まるソレは、暖炉のルーンだ。
「…やっぱり、レインは優しいですね」
「簡単に死なれるとつまんねーからだ」
悪魔の言葉に天使はクスリと笑った。
「餓死されたら面倒」と言って食糧や水を持って来たり、「勝手に殺されたらムカツク」と言って岩窟に生成のルーンで扉を作ったり、中心地に煮立つマグマの熱と反比例するような冷え込む冬の夜に「凍死されたらつまらねえ」と言って毛布やルーンを持って来たり…。そんなレインの優しさを知っているからこそ、リーリエは彼の奇襲も受け入れていた。
外の岩に腰かけて夕陽に染まった狭い空を見上げる。レインもすぐ隣に腰を下ろした。
「そういえば、聞かないんですか?」
「何が」
「わたしが堕天した理由」
リーリエの長い睫毛が朱色に輝く。あの夜以降、それに関する話は殆どしていなかった。
「…なんでだ。罪状は」
「さぁ、わかりません」
「ナメてんのか、ブッ殺すぞ」
苛々と斧を握ったレインに、リーリエは「ごめんなさい」と笑った。
「でも、本当にわからないの。ただ、わたしは生まれつき“これ”を持っていました」
白く細い指が、左の胸元に刻まれた逆十字をなぞる。
その小さな点が、堕天の烙印であることが発覚したのは数年前。捕らえられた後に始まった裁判は、長い月日をかけて“有罪”の判決を下した。そしてつい先日、刑の執行として翼を鎖で拘束され、敵だらけの外界へ放り出されたのだ。
「烙印があるということは、何かしらの罪を犯しているはず。生まれつきだと言うなら、ますますの大罪である。…そう言われた。つまり、わたしの“存在そのもの”が罪なんです」
自嘲気味に微笑む横顔に、レインは眉を顰めた。
「なるほどな」
初めて会った時から違和感があった。言葉、態度、そのすべてにおいて、リーリエはあまりにも“堕天使らしく”なかった。貪欲に生へとしがみつき、この世の不条理を憎み、負の感情へ心酔する…そういった狂気を全く感じなかった。
「テメーは堕天使に“なった”ワケじゃなく、“そう生まれた”ワケだ」
「そういう意味では、生粋の堕天使ですね」
ユリの花にも似た、白い輝き。彼女はどこまでも天使で、しかし生まれながらの罪人だった。
「わたしは、自分がなぜ堕天使なのかを知りたいのです。だから、分かりやすい罪は犯しません」
「殺さねーってか」
「そういうことです」
にこりと笑った彼女は、いつ自分を殺すかも分からない悪魔に背を向けた。それは、彼女の信頼の証だ。
「…クソが」
レインも、本当は分かっていた。
自分が彼女を殺せない事、元より殺す気が無い事くらい、分かっていた。

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