LOST ANGEL | ナノ


07

翌日、いつも通り警視庁に入り浸っていると、ハイヒールの音がコツンと近付いてきた。相手を察して顔を上げる。

「彼女、大丈夫だったの?」
「ええ。僕の方は相手が想定以上に手強くて参ってますけどね。怪盗の手でも借りたいくらいですよ」

新島冴だ。挨拶代わりのジョークをひとつ挟むと、視界の中心にある眉間の皺が一層深くなった。対面の椅子に腰かけた彼女から何か話したげな空気を察してパソコンを閉じる。
それを合図に、完璧なタイミングで検事が口を開いた。
「あの子、両親が海外にいるみたいで、暫くの間あのホテルに留まるそうよ」
「…そうですか」
「子どもに無関心な親みたいね。仕事の都合で海外に行くからって、彼女を事務所に預けてそれっきり。学費とかそのあたりのお金だけは払ってるらしいけど、金で解決できるならって感じで…彼女も数年会ってないって話だったわ」
天使をこの世に生み出した者。万物の創造主がいたとして、神が存在していたとして、どうやらそんな幻想とは程遠い人間がそうらしい。
勝手で産み落とされた果てに捨てられたなんて、考えるだけで反吐が出そうになる。どいつもこいつも馬鹿で浮薄で呆れるほど嘆かわしい。これだからいつまでも価値のない命が我が物顔で呼吸を続けている。
しかし、何故この検事は知っているのだろう。俺が知らない天使の事を。
「事務所の人たちが家族代わりだったみたいで、もしかすると、あの子にとっては“家族を助ける”って感覚だったのかもしれないわね。それでも間違っているとは思うけど」
そこまで語り終えて、彼女はようやく俺を見た。すぐに視線を外し、大きく溜息を吐く。
「…その様子だと、彼女はそういうことは言わなかったのね」
「ええ、初耳です」
「私も事務所の方から聞いたのよ」
俺の疑問と苛立ちを察したのか、検事はサラリと情報源を開示した。
「あなたになら言うかも…って思ったんだけど、なかなか難しい子ね。個人の感情は殆ど出さないし…全然読めないわ。妹とそう歳も変わらないのに」
「何せ、天使ですから」
勿論、これは嫌味だ。
「…そうね、賢すぎるのかしら。それも考えものね」
苛立ちと共に投げ落としたそれを、検事は手厳しく受け流した。

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