LOST ANGEL | ナノ


01

羽咋詞は、テンプレ的な性悪の美少女でも、尊いまでに完全無欠の少女でもない。
女優という肩書を持った、透明でカラッポの、色の無い、十人十色の認識次第で姿も在り方も変わる、想像上の生き物だ。

――それこそ、天使のような。

天使がこの世に存在すると仮定して、また、仮に『性善説』が正しかったとして、そんな柔で純なものはあっという間に世界に穢される。
この世界に生き続けても尚、自己犠牲精神のようなものを持つ崇高な人間なんて、数にするなら片手で足りる。
誰もが皆、己の為に生き、溢れかえる波の中でもがいて、一部の者が幸福を掴み、反対側では無残な現実に大勢が溺れ死ぬ。
現実は待たず、止まらず、猶予など一切与えてくれることなく、次々と未来を突き付けてくる。
何故、こんなところで俺は生きているのだろう。
天使がこの世に存在すると仮定して、俺を握り潰して、そっと火を付けてくれたなら、煙となって静かに空を揺蕩うこともできるのに。

感情とは、無慈悲に、執拗に、人を責めるものだ。
あの男を憎む気持ちと同じくらい、俺は今、この感情に生かされている。

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