03
初日ということもあり、美術館はたくさんの人で溢れていた。
テレビでもよく取り上げられるほど、“超”が付く有名日本画家の個展である。普段芸術にあまり興味がなくても、これなら行ってみるというミーハーな客も多数いるだろう。
「来てくれたんだね!」
蓮たちがあまりの人に尻込みしていると、嬉々とした声が近付いてきた。四人が目を向けると、昨日出会った彼がそこに立っている。喜多川祐介だ。
祐介は蓮と竜司を見て露骨に嫌そうな顔をし、それから咲の方に目を向けて目を丸くした。
「彼女も連れなのか?」
「あ?そうだけど」
その問いに竜司が答えると、祐介は咲へと一歩近づいた。
「驚いたな…。君たちの友人にまだこんな女性がいたとは」
「はあ?」
「上品で、淑やかだ。なるほど、こういうのもいいかもしれない」
杏の前でも見せた彼の“変態っぽさ”は健在だった。杏と竜司は呆れたようにため息をつき、咲が困ったように苦笑する。
「君の名前は?」
「えっと…芹澤咲です」
「俺は喜多川祐介という。斑目先生の門下生をしているんだ。…そうだな、高巻さんと芹澤さんは俺が案内しよう。お前たちは他のお客様の邪魔にならないようにな」
祐介は早口にそう言うと、咲と杏を連れて踵を返した。
杏はモデルの件がある手前仕方がないが、巻き込まれるような形になった咲は心配そうに蓮と竜司の方を振り返る。蓮はそれに「心配ない」と手を振り、仕方がないので竜司と二人で展示を見て回ることにした。
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