狡猾なるSICKNESS 突然だが、ベジータは悩んでいた。 それはもう端正且つ怜悧な容貌を二十四時間常に蹙め、体中の血液を顔面へと集結しっぱなしな程に。 流石にこう何日も悶々とされては空気が悪くて敵わない、と妻であるブルマにどやされ、彼は現在山中に籠もっている。 そう、内に宿りし煩悩を捨て去る為、修行僧が如く日夜滝に打たれているのだ。 しかし、己を煩らわせる元凶を思えば思う程に募っていくストレスは果てしない。 ベジータは勢い良く頭上へと降り注ぐ水流の中、激情に駆られるまま開眼した。 (何故だ……!何故オレはあの男を、カカロットの姿を浮かべるだけでこんな……っ) 誇り高きサイヤ人の王子が、たかだか一下級戦士に傾倒するなどあってはならないのだ。絶対に。 最早、八割型プライドで形成されていると言っても過言ではないベジータの事、この様な異常事態を享受するなど到底出来よう筈もなかった。 彼にとっては悪夢に等しき苦難である。 「くそったれめええ!許さんぞカカロットの野郎!!そうだ、今度会ったら必ず息の根を止めて……」 「な、なんだよ?オラが何かしたのか?」 はた。 猛然と立ち上がり、恨み辛みを叫んだ状態で暫し硬直する。 眼前には見慣れた道着姿に素っ頓狂な声で眉を下げた蟹頭……じゃなくて孫悟空。サイヤ人名カカロット(正にベジータを煩悶させる張本人)その人が佇んでいた。 「カ、カロッ……キサマどうして、こ、此処……に」 硬直から抜け出した彼は、わなわなと信じられない物を見るように悟空を指差しつつ、真っ先に問い掛ける。 ベジータらしくもない動じっぷりだ。 そんな、気の毒を通り越して滑稽にも思える挙動不審さを目の当たりにし、辟易でもしたのか悟空の腰が引けた。 然れど直後に、多大なる心配の念すら押し寄せて来たらしい。「大丈夫か?」と未だに濡れ鼠な男を気遣う素振りで近寄って来た。 「へ、へ、平気だからそれ以上寄るんじゃない!」 「でもさあ……」 「良いから!!」 ふと、妙な既視感に見舞われたやり取りである。 必死にビッグバンアタックのポーズで防壁を作りながら、ベジータは首を傾げた。 けれども記憶を掘り起こす最中に凄まじい悪寒諸々が走ったので、敢え無く考えを放棄する。 我知らず左頬を拭いながら。 |
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