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それって単なる痴話喧嘩ですよね


「や、やめろってベジータ!」
「何を今更嫌がる必要があるんだ?」
「……だ、から!今日は気分じゃねぇっつってんだろ!!」
「知るか、そんな事」


只今二人が取っ組み合いをしているのは、カプセルコーポレーション内にあるベジータの寝室である。
お互い上になったり下になったりと忙しく転げ回りながら、それぞれの思いを吐露する事は忘れない。

ベジータはなかなかに涼しい表情を崩さないけれど、現在悟空を押さえつけている両腕の力強さから見て、そのシャレで済まされない興奮度が窺えた。
応戦する悟空も、勿論本気である。
本気と書いてマジと読める程真剣な彼の顔付きは、何処か危機迫って見えた。

「たまにゃ、オラのカラダを気遣ってみたらどうなんだ!?」
「うるせぇ!このオレが譲歩しろってのか!?たかが下級戦士ごときが指図をするな……っ」


次第にヒートアップする攻防戦の最中、ベジータがハッと息を飲む。
ついつい焦って口を滑らせてしまったのだ。

恐る恐る相手の顔を覗き込んでみると其処にあるのは、静かに、けれども激しい憤怒を双眸に湛えた悟空の姿。
咄嗟に訂正しようとして口を開き掛けたベジータだったが、漆黒の瞳がエメラルドのそれに変貌するのを目の当たりにして思わず驚愕を露わにした。


「カ、カカロッ……!」
「もう許さねぇぞ……ベジータアアァァ!!」


堪忍袋の緒が切れた、とばかりに黄金のオーラを爆発させた悟空。
爆風や余波を受けて、既に室内は半壊状態となっている。

流石にまずい。
吹き飛ばされてみっともなく尻餅を付きながら、ベジータは冷や汗を流した。
激昂した悟空に勝てる見込みなど、最早ゼロに等しいからと言うのも一つの理由だが。

(まずいぞ!この部屋の有り様を見たら、ブルマのヤツにまた小言を……!!)

取り敢えずキレた悟空を彼なりに宥めようとしてみた。ら、どれもこれも見事な逆効果を発揮して。

結果、火に油を注いでしまっただけであった。


「かめはめ……」
「おお、落ち着けカカロットー!!」
「波──っ!!」




説明するまでもないが、彼の必殺技によってベジータの自室は忽ち瓦礫と化す。
悟空のお蔭で見通しが素晴らしくなり過ぎた部屋を訪れ、ブルマは暫く開いた口が塞がらなかったそうだ。


「どういう事なのか説明してくれるかしら?ベジータ、孫くん」


仁王立ちで腕を組み、こめかみを痙攣させた彼女は、二人を交互に睨みながら事件の顛末を問う。
そりゃあ今から就寝しようと言った夜更けにこの惨事と来れば、苛立たずにはいられまい。

対する男二人はと言うと。

「オラ悪くねぇぞ。何度も嫌だっつってんのに、力尽くでやろうとするベジータが悪りーんだ」
「な!カカロット貴様!!オレの部屋を破壊した張本人は貴様だろうが!!」
「むっ。何だよ、全部オラのせいだってのか?大体なぁ!ベジータはオラのキモチ全っ然分かっちゃいねーんだ!!」
「貴様こそオレの気持ちを考えて……」

瓦礫の上へ座った儘、見下すようにボロボロのベジータを睥睨していた金髪の悟空は「あー聞きたくねぇー」と両手で耳を塞ぐ。
不貞腐れた彼は確かに珍しい。
だが会話の内容から察するに、低レベルの下らない喧嘩へと巻き込まれた部屋の方が寧ろ可哀想だろう。

いい歳こいたオッサン二人が、子供レベルの言い争いを繰り広げる光景は見ていて情けないとすら感じる。
ブルマは遠い目をした。
喧嘩する程仲が良い、とはよく言った物だ。








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