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ドボンと派手な水飛沫が上がって沈んだ相手を見遣り、流石の悟空も「やっべ」なんて顔で青ざめてみせた。
自分は既に何も身に着けていなかったから良い物の、ベジータは別である。

「す、すまねぇベジータ!大丈夫か!?」

慌てて水中を覗き込もうとしたら、其処から突然伸びてきた腕に頭を捕らえられて自身も水面下に引き込まれてしまった。
いきなりの事に、空気を肺に溜めるなどと言った対処すらも追い付かず、悟空はただただ息苦しさに悶える。
このままでは溺れてしまう、と抗議の眼差しで面前のベジータを睨み付けたが、彼は憎たらしい笑みを張り付けて自分を嘲っているだけ。

そっちがその気ならと、急激に力を上げて相手の腕から逃れようと目論んでみた。
だけれど計画を実行する前に、困難になりかけていた呼吸が許される。
まだ全身が水に浸かっている状況なのにどうして、と酸欠で痺れていた脳を働かせてみれば。

ベジータの唇が悟空の唇を隙間無く塞いで、自らの酸素を相手に分け与えていた。

訳が分からなくなりつつ、悟空は許された呼吸に無我夢中で縋り付く。
それが口付けと言う行為だとは理解も出来ない儘に、星の明かりや動物の鳴き声も空気すらも届かぬ場所で貪り合っていた。

ゆらゆらと波打つ金色の髪は、薄暗い水中でも尚輝きを保って美しい。
否、光の遮られた場所だからこそ、余計鮮やかに映えるのだ。
唇の柔らかさと吐息の熱さと滑らかな肢体の感触に、どうしようもない興奮を抱きながらベジータは必死に己を求めようとする悟空を眺めていた。

例え求められるのが“自分”では無くとも、やはり悪い気はしない。
言葉ではなくて、必要なのはその存在。

確かめられればそれだけで充分だった。
何事にも執着を持たない彼が、“生”にしがみつく人間らしい姿を。




「はぁっ、はぁ……ゲホッ」
「……っ、ハァ、ハァ」

空気に触れれば、先ず二人して暫し呼吸を整える事のみに集中した。
少々危険な遊びだったか、と口元を拭いながらベジータは腕の中で息も絶え絶えな悟空の身体を支える。

(今のカカロットならば、簡単に倒せそうだ)

頭の片隅で思っても、相手と同様に自分の消耗が激しいのを熟知している故に手は出さないが。

取り敢えず舞空術を使って水上に浮くと、湖のほとりに座り込む。
無論、ぐったりとして動かない悟空を横抱きにした儘だ。

何にせよ悟空の全裸は目に毒な為、それとなく彼の服を視線のみで探した。
すると案外近くに、あの山吹色の道着が脱ぎ捨てられている。
それを仕方無く拾ってやろうと、ベジータは悟空を草の上へ横たえてから腰を上げた。

想像した通り、水浴びは得意なその場の思い付きだった様子。
辺りに目を配っても、タオルらしき物は一向に見当たらなかった。
ベジータはコイツらしい、と半ばげんなりしながら無造作に服を掴み、まるで悟空の身体を覆うようにして投げつけた。


「後は自分でやれ、じゃあな」
「……ま、待てベジータっ!おめぇ、オラに何か用があったんじゃ」


去ろうとした背中を、掠れた声音が引き留める。
用?と問われたベジータの方が思案に耽ったが、成る程。用でも無ければ自分がわざわざ悟空に近付く筈がないのだと、思い至っての質問か。

全く、どこまでも手間を掛けさせる奴だ。



「そうだな。強いて言うなら」
「……」
「貴様の存在を、確かめに来てやった」
「はぁ?」


途端に悟空が素っ頓狂な声を上げる。何だそれ、と言わんばかりに拍子抜けした様子で。

意味など知る必要は無い、少なくとも貴様自身には。
そう言いたげな背中はそれ以上の言葉を紡ぐ事なく、漆黒の大空に飛び立って行った。

残された悟空はベジータの複雑な心境など知る由もなく、湿った肌も厭わずに投げつけられた衣服へと袖を通すのであった。





end








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