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破れた衣服


彼は自宅最上階に備え付けられた重力室での、トレーニング中だった。
そこに割り込んで組み手をねだったのは、都合を考えなかった此方に非があるだろう。
だけれど、彼とて途中までは特別嫌な顔をせず相手をしてくれていたのに。


「なな、なんでいきなり発情してんだよ!?おめえは!」
「フン、知れたことを」
「ちょ、ちょっと待ったベジータ!オラ今日着替え持って来てね……」

言うが早いか、布の破ける不吉な音が。
逸る気持ちに急かされたのか、ベジータに脱がされようとした道着のズボンが、骨盤辺りから脹ら脛まで勢い良く裂けてしまった。
つまり、清楚な純白色のパンツが丸見え状態である。

「あ──っ!!」

遅れて悟空の叫び声が上がった。
早速心配事が現実となり、最早怒りやら困惑やらが綯い交ぜだ。
せめて上衣ならば、いっそ裸でも珍しくはない物の。

「なにすんだよ!んな変な破け方したらチチに疑われちまうだろ!」
「生憎とオレは、キサマの家庭なんぞに興味はないんでな」

山吹色の切れ端を擲つと、ベジータは事も無げに吐き捨てた。
彼は「そりゃねえよ」と、頼りなく眉を下げる悟空にのし掛かり、頸部へ浮き出た骨の筋に沿って唇を滑らせる。

「妻を騙す言い訳くらい、幾らだってあるだろうが」

追加された言葉は、所詮他人事だと突き放すような薄情さを滲ませた助言だ。

「そんなに怪しまれるのが嫌なら、傷痕でも残してやろうか?キサマでも言い訳しやすいようにな」
「うわ……!」

そんな皮肉を告げながら、ベジータは押さえつけた悟空の肩口を噛む。
歯を突き立て、グッと力を込めると瞬く間に溢れ出て来た鮮血は、白い腕と明色の衣を紅に染めた。

「つぅ……!ベジ、ッ」
「このままキサマを、食ってやりたいぜ」

赤黒い染みが広がり切る前に、上衣とアンダーシャツを鷲掴み肩から引き裂いて、その素肌を晒す。
手加減したつもりだが、殊の外出血量が多い。
何とはなしに舌で絡め取れば、苦味が口中へと伝播し思わず眉を顰めたベジータ。
今更味の悪さに驚く道理もない。ただ、未だにこんな物でざわつこうとする己の心が煩わしかっただけだ。







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