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フラグ・クラッシャー


本日の正午はチチに連れられて、ショッピングとやらに遥々都まで付き合わされた。
縦に積めば軽く数メートルはある大量の荷物を抱え、珍しく物騒な襲撃なんかも起こらずに無事帰宅すれば──何故だかベジータがいた。


「……何でベジータがオラの部屋で寝てんだ?」


悟空は首を捻り、さも当然とばかりにベッド上を占拠した矮躯の男を身遣る。
敢えて横たわらず、壁を背に腕や足を交差させたまま、伏せられた目蓋。寝顔にしては厳めしさの窺える眉間に刻まれた皺は、彼らしいと言えばらしいけれど。

しかし、ベジータの様子を幾ら心中で実況しようが、解決の糸口はとんと見つからぬのだ。
然すればそんな折、背後から自身とよく似た柔らかい口調の声が手助けをくれる。

「ああ、ついに眠っちゃいましたか」
「お、悟飯」
「あのですね、おとうさん達が出掛けてる間にベジータさんがやってきたんです。それで、いないなら待つって聞かなくて」

つまりは、お得意の超オレさま理論で居座ったのだと、悟飯は頬を掻きながら困り顔で説明した。

「多分、おとうさんに勝負でも挑みに来たんですよ。意気込んでましたし」
「何か、迷惑かけちまったみてえで悪いな悟飯」
「?やだなあ、どうしておとうさんが謝るんです?」
「えっ。い、いや、ははは!」

思わず「オラのベジータが」などという世迷い言を口走りそうになり、悟空は誤魔化す為に慌てて笑い飛ばす。
これについてはベジータが悪いと言い切れた。
会う度会う度「カカロットはオレのモノ」なんて、くだらない主張を延々吹き込んでくれたのだから。
それにより抵抗感が殆ど失せ、付けたくもない耐性が身に付いてしまったのも仕方ないと、ひとまず弁明させて欲しい。

(くそ。ベジータが変なコトばっか言うから)

この頬が熱いのは、妙な言をポロリと滑らせかけた所為に違いないのだ。
そりゃあ、対戦相手にと誘われるのは武道家として純粋に嬉しいけれど。

彼は自分と力量に於いての引け目などなしで闘ってくれる数少ない戦士である。勿論、仲間として憎からず思ってはいた。
が、断じて彼相手に“照れくさい”なんて甘酸っぱさ漂う思春期じみた想いなど、芽生えたりしてはいない。
飽くまでもベジータは“仲間”だ。
よし、と一人大きく頷いて、悟空はやっと冷静さを取り戻す。

「じゃあ、ベジータさんを起こしますか?このまま放っておいたら、帰ってきた悟天にラクガキとかされちゃいますよ」
「うーん。ぐっすり寝てるんだし、起きるまでそっとしといてやろうぜ。悟天の相手ならオラがしてやっから」

どことなく、他人に自室を占領されている状況も新鮮味のようなものがあった。
普段は顔を合わせれば、やれ勝負だなんだのと煩い男も、眠っているのなら居ても気にはならない。
ついでに“寝顔”と言う貴重な物も拝めたので、彼が目覚めたらこれをネタに揶揄ってやろうと密かに目論み、悟空は夕飯を待つ間の散歩へと出向くのだった。




「ありゃ。まだ寝てんのか」

軽くパオズ山を回るだけの予定が、いつの間にやら次男との組み手へと発展。
それから仲良く一風呂浴びた後チチの手料理をたらふく味わい、ようやっと悟空が自室に戻って来れば変わらぬ体勢で居眠りしたままのベジータがいた。
よっぽど疲れてでもいたのだろう。
肩を揺すっても声を掛けても、一向に覚醒する気配がない。

「しょうがねえな」

ちょっとばかり逡巡して、悟空はベジータの体を横様に倒した。











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