2 例の過去へと思いを馳せているのか、目蓋を閉じ自らの胸に手を添える彼は、何処か恍惚として輝いていた。 今自分が何を言っても無駄なのだとクリリンが悟る程、彼の瞳は想い人だけを映す。 罪悪とか禁忌とか、恐らく全てを理解しながらも惚れてしまったのだろう。 悟空は馬鹿ではない。 それに、こうと決めたら頑ななのだ。 だとすれば、第三者が口を挟めるのは此処までだろう。 「お前が決めたんなら、オレは何も言わねーよ」 「クリリン……」 「ただし、応援だけはしねぇからな!オレはお前が……親友が、不幸になるトコなんて見たかないんだから」 持てるのは、吹聴しない優しさ位だと呟いたクリリンに頷いて、悟空は満足げに扉へ足を向けた。 (吹っ切れたツラしやがって) その日、複雑な面持ちで彼を見送ったクリリンが後悔の念を抱いたかどうかは定かでない。 が、翌日。 突如悟空が宇宙旅行へ出掛けたと言う知らせには、後悔よりも呆れが先立ったらしい。 つまりは昨日、自分に相談を持ち掛けた際。 彼は燻っていた旅行への決心を固めてしまったと言う訳である。 (けどさー宇宙旅行って、お前……) 新婚旅行気分かよ? 船は勿論カプセルコーポレーション製。 修業相手として暇そうなベジータを連れて行ったと聞いたが、付き合わされた方も満更ではなかった様子らしい。 これじゃあ地球に帰還した後の二人がどうなるかなんて、想像に難くない。 クリリンはこれから一切彼らには関わらないでおこうと決意し、腕の中で眠ってしまった愛娘を寝室へ運んだ。 end |
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