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ANOTHER FUTURE


それは、想定されたあらゆる可能性の一つとして起こり得たかも知れない“もしも”の世界──。





荒廃した大地、なけなしの生活感を残したまま虚しくも残骸や瓦礫に変えられた無人都市。
見上げれば重苦しい灰色の空、砂埃のみが風に煽られて宙を舞うも、眉を顰める気配も無く。

正に墓標の如く聳え立つゴーストタウンで、つまらなそうに息を吐いたのは諸悪の根源たる人工生命体だった。


「此処にもいない、か。だがいずれにせよ、この私から逃れる術はない」


じわじわと追い詰め、苦しめ、血反吐を吐くまでたっぷりと可愛がってやろう。

愛しの愛しの孫悟空──。




細胞に刻み込まれた“彼”の情報を繰り返し反芻しながら、絶望の象徴として君臨せし怪物は美しくも妖艶に微笑んでみせた。
誰一人刃向かう者の居なくなった世界で、それが唯一であり最後の楽しみなのだと。

そう、今や彼だけが怪物の全て。
だから簡単には殺してやらない。
たった二人きりとなってしまった地球上で、束の間の喜びを分かち合おうではないか。

捕まれば即座に終わりの鬼ごっこ。さて、いつまで続く?





「ベジータ、しっかりしろ!あと少しだ!」
「……くっ、オレの事は放っておけ……助かる見込みが高いのは、き、貴様の方……なんだ」
「なにバカ言ってんだよ!二人で一緒に助かるって、そう決めたじゃねえか!!」

かの怪物“セル”と二人が対峙してから、そう時は経ってはいなかった。
何とか奴の隙を突いて命からがら逃げ遂せた物の、ベジータはかなりの深手を負わされてしまった後であり。
悟空の肩へ腕を預ける不安定な体勢でどうにかこうにか歩くが、やはり足はロクに動かず引き摺ってしまう形だ。

加えて失血も酷く、ベジータの意識は半ば朦朧として話すのがやっとと言った様子である。
幸運にも一時気絶していただけのベジータを死んだものと思い込んだセルが、それ以上の追撃を試みなかった事が救いだろうか。

逆に悟空の方は彼程のダメージを受けていないのか、足取りもしっかりとしていた。
然れども汗の量が尋常ではなく、手袋越しにも伝わって来る湿った感触にベジータは些か怪訝そうな面持ちになる。


そんな二人が進むのは、地下の古びたトンネル内だった。
機転を利かせた悟空が太陽拳を放ったのちに抜け道から逃れたのだが、ベジータにはさっぱりと見覚えのない道筋である。
無論照明すらない為、ただ闇雲に突き進むのみなのだと思っていたが、どうにも想像を外した模様だ。








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