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君がくれた宝物


「わ、っと……!」

行き交う人々、犇めく雑踏。
時折人混みの波に流されそうになりながら、悟空は懸命に前方の背中を追う。

こう言った場所では何となく他人に気を遣ってしまう為(彼にとって地球人とはどうしようもなく脆弱な存在故に)、いつだって自分を優先的に考える相手のペースには、ごく稀であるが付いて行けなくなるのだ。
力尽くでそれらを押し退ける事は簡単だが悟空は人波に逆らう真似は敢えてせず、だけれども遠ざかる背中には焦りを募らせるばかり。

いっそ、舞空術使って飛んでっちまおうか。

しかし、余り騒ぎを起こさないでくれ、と出掛ける間際に妻から念を押されていたのを思い出した彼は、すんでのところで我へ返る。
流石に此処で空を飛べば、街中が大騒ぎになろう未来くらい悟空にだって予想は付く。


どうしよう、ああ、どうしようと、いつの間にやら眼界から消え失せたあの背中を探しつつ、相変わらず揉みくちゃ状態だ。
はぐれてしまったのだろうか。
溢れかえる人の群で、自分と同じように極力気を抑えているらしい相手の姿は見付からない儘で。

悟空は、溜め息と共に頭を項垂れた。
けれど、そんな時。



「何をやっている、カカロット!いちいち世話を焼かせやがって」


いきなり乱暴に腕を引かれたと思えば、探していた人物が目の前に居るではないか。
吊り上がり、実に不機嫌そうな眦だが、今の悟空にとってはそれすらも安心感を齎してくれる嬉しい物だった。

「ベジータぁ!」
「チッ、さっさと行くぞ」

悟空の手を引いて、ズンズンと己で作り出した道筋を歩み出すベジータ。
それが何だか頼もしかったり、繋いだ手が意外に熱かったりで悟空は「へへっ」と小さく微笑んだ。




普段は身に着けない余所行き用の服で着飾って、都会に溶け込む事が不自然で堪らなかった。
だから妻から「たまにはお洒落な服くれぇ買って来たらどうだ?」と提示されたって怪訝に眉を顰めてみせたのに。

ベジータと一緒じゃなければ、すんなりと断っていた筈だった。
そう。
場所はカプセルコーポレーション。
そこを自宅とするブルマが当然の如く場に居合わせて「じゃあウチのベジータも連れてってくれる?」とか何とか物の次いでとばかりに頼まれた。
遂にはそれを切っ掛けにして、行き当たりばったりのまま決定したりしなければ。




「カカロット」
「えっ?」


不意にポンと投げ渡された小箱を片手で器用にキャッチして、悟空は目を丸くする。

「何だコレ」
「貴様にくれてやる」
「オラに?おめぇが??」
「いいか!気紛れで買ったが、良く考えればこのオレ様にはそんな安物は相応しくないから貴様にやるのだ。断じて!わざわざ貴様に似合う可愛い小物を苦労して選んだ訳じゃ……っ」
「ハイハイ、分かってるって。可愛い小物ね、オラに似合うんかなあ」

墓穴を掘ってしまった己の台詞を反芻せず、ベジータは再び前を見据えて目的地を目指し始めた。








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