−3限目− 【目立つ奴の噂はカレーうどんのシミ並みに厄介】 ―――窓越しに入る眩しい朝の日差し。 その鬱陶しい光に、重い瞼が自然と開く。 「―――…。っ!!?」 ゆっくりと数回瞬きをし、目前に映る光景を寝起きの頭で整理した途端、はっきりと覚醒した。 “たたたたた高杉…くん…!!!” 彼とのその距離、約拳一つ分。 名前は思わず頬を赤らめ、息を止めながらその場を逃れようとするが、何故か身体が動かない。 「――――…」 よく考えてみれば、腰の辺りに感じる温もりと、異様に近い彼の顔。 名前は今の状況に、夜中の事を思い出すと目を細めた。 “もしかして……ずっと――――…” 夜中、名前は高杉の腕の中で涙が止まらず、彼はずっと、子供をあやすように優しく背中を叩いてくれていたのだ。 その後も、横になり、眠りに就くまで抱き締めてくれていた彼は、そのまま自らも此処で眠ってしまったらしい。 「……………」 名前は、規則正しく肩を上下させ眠る高杉の顔を見、自らの目頭が熱くなるのを感じた。 すると、コンコン、と扉を叩く音が聞こえ、彼を起こさぬよう、ゆっくり腕から離れ、そろそろとドアへ向かう。 「はい」 (ガチャ…) 「あ……」 「お、おう…」 其処には部活の朝練習の為、胴着に着替えた土方が立っていた。 「おはよう。どうしたの?」 「悪ィ…寝てたか?」 「今ちょうど起きたとこ…」 「そうか」 普段なら寝ている時間だが、今日はアラームが鳴る前に目が覚めた名前。その理由が言えないので、苦笑いを零す。 土方はそれに気付いていないらしく、目を逸らしながら小さく口を開いた。 「あのよ…」 「?」 「…た、高杉の事なんだけどよ……」 「うん…」 その名前が出て、名前は一瞬目を見開くが、あくまで冷静を装う。 が―――… 「アイツ―…「俺がどうしたって?」 「「!!?」」 此処でまさかのご本人登場。土方が勢い良く顔を上げると、そのご本人は、名前の後ろで壁に寄りかかっていた。 ** 「高杉…!!テメ、何で…!!苗字!!」 此処は名前の部屋で、その部屋の奥から出てきたのが高杉。 有り得ない状況に、土方の瞳孔が何時にも増して開き、双方を見る。 「あの…トシ、これは…」 「何してんだ…!!」 「何って、聞きてェのかァ?」 「テメェ!!!」 ニヤリと妖しげに笑った高杉に、土方は声を荒げながら彼に掴みかかった。 「ちょっ!トシ!!」 「どうしたんですかィ?」 「お、沖田くん…」 「苗字さ……高杉!?」 タイミングが良いのか悪いのか、今度は沖田が登場し、土方は握り拳を降ろす。 沖田は名前を見た後、高杉の存在に気付き眉を顰めた。 「何してんでィ…!!」 「ククッ…テメーら、揃って同じ事聞いてくんだなァ」 「「あァ…!?」」 悠々と笑う高杉に対し、土方と沖田は険しい顔で彼を睨む。 「苗字さん…これはどういうことなんでィ?」 「えと、それは……ん!?」 「「!!」」 高杉を見ながら、名前に問う沖田。その答えに名前がどもっていると、高杉は彼女の口を押さえた。 「悪ィが、テメーらに話すことじゃねェんでなァ」 「高杉!!」 「テメーいい加減にしねェと……」 「トシと総悟はどこォォォ!?」 声を荒げかけた土方だったが、通路から近藤の声が聞こえ、言葉を喉に仕舞い込む。 「近藤さん…」 「チッ………」 「ぷはっ、ほ、ほら、ゴ…近藤くんが呼んでるから!部活行かないと!」 名前は高杉の手から逃れた口を開き、必死で二人に近藤の元へ行くよう促した。 「だとよ。早く行けや」 「テメーが言うな!」 「朝練、頑張ってね」 「――…あァ」 高杉がニヤリと笑うと、土方は歯を食いしばるが、続いた名前の言葉に気持ちを抑え、返事をする。 「まだ話は終わってやせんからね」 続いて沖田が不満げな表情を浮かべながらそうぽつりと吐き出すと、二人はその場を去っていった。 . [章割に戻る] |