魔王様のにゃんにゃん4



   ***



 長閑な青空、囀る小鳥、中庭の白い丸テーブルを囲んで優雅に茶を嗜む……わけがない。

「お、おおおお俺は悪くないぞ!」
「言いだしっぺは兄さんだよ!」
「……なんで俺まで」

 発言は順にピグモ、アラモ、ヴォルフラムだ。
 結論として耳と尻尾の原因はこいつらだった。
 まずピグモがこいつらの大きさでしか通れないような洞穴の向こうで、最高の昼寝スポットを見つけたらしい。
 そこで俺を誘おうとするも通れるはずがないので、アラモに『ユーリも俺たちみたいになれたらいいのに』と相談する。
 それを聞いたアラモが、物知りのヴォルフラムに『ユーリが自分でもモフモフを堪能したいらしい』と相談する。
 そこでヴォルフラムはその手の界隈じゃ有名な、自慰行為の手助けが出来る獣の耳と尻尾が生える薬を入手。
 ピグモは『これで明日一緒に昼寝出来るぞ!』と、俺の食事に薬を仕込む。
 翌日意気揚々と部屋を覗いてみれば、耳と尻尾の生えた俺がジークと致しているのを見てこれはマズイと逃亡。
 が、あっさりユイスに捕まって挙動不審な様子から芋蔓式に真相が発覚したというわけだ。
 ちなみにピグモとアラモは罰として紅茶ポットに閉じ込めの刑だ。ポットから首だけ出してるのが可愛いとかそんなことは全く思ってないぞ、うん、ない。

「にしてもどんな伝言ゲームだ。ヴォルフラム、お前絶対俺に対してとんでもない偏見持ってるだろ」
「ふわふわした可愛いものを性的に触って楽しんでるんじゃないのか?」
「んなわけあるか! あくまで嗜好だ嗜好!」

 こいつ、俺がピグモとアラモを稚児的な存在として囲ってるとか思ってそうだからな。いつかちゃんと説明しないと余計な噂が広まりかねん。

「ヴォ、ヴォルフラムは悪くないんだ! 僕がちゃんと伝えていれば……」

 俺が怒っていると思ったのか、ぐずぐずと泣きそうなアラモに、それを見たピグモまで泣きそうになる始末。ぐ、俺は泣く奴が一番嫌なんだ、例えもふもふで可愛くても泣く奴は……。

「……許す代わりにお腹に顔埋めていいか?」
「やっぱ変態じゃねえか」

 呆れたような溜息はこの際聞かなかったふりだ。

「まぁ原因が分かったことだし、これでユーリも一安心ではないのか?」
「んっ」

 ジークが間に入って俺の耳の裏を撫でる。すっかり性感帯として開発されてしまったそこは、触れただけで腰が抜けそうな快楽を覚えるようになっていた。

「ん、ま、まあそうだよな。これで俺の不安も解消ってわけだ。……で、これどうやったら消えるんだ?」
「は?」
「え?」
「業者に言ったら譲ってもらったものだから俺は知らん」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ? お、おまっ、んな得体の知れないものをピグモに渡したのか!」
「使うのはてめぇだし」
「おい、ジーク。こいつの毛を刈ってブランケットでも作ろう。丸裸にして湖に投げ込もう」
「ユーリ、少し落ち着いたらどうだ。私はその姿も可愛いし似合ってるし……な、何よりエロいから暫くそのままでも悪くないと思うぞ」

 鼻の下を伸ばして何を言ってるんだろう、この気持ち悪い魔王は。

「じゃあ俺はまだ暫くこのままなのか……」

 なんてことだ。慣れてきたとはいえ、戸を開けるときに尻尾がぶつかるし、頭を掻こうと思ったら耳があるしでやはり不便ではあるのだ。

「え、それ解毒剤で消えません?」

 見えた希望が去ってしまった悲しみにがっくりとテーブルの上に頭を叩きつけたところで、お茶菓子を持ってきてくれたユイスが粉末状の薬剤を渡してきた。
 俺は薬剤とユイスを交互に見て首を傾げる。

「え?」
「呪いでもない限り、この世界で基本的なものは大体アオカゲラの葉で治りますよ」

 ま、貴方が手を出せないくらい高価なものではありますがね、と憎まれ口を叩かれたが、俺はそんな言葉が聞こえないほどの感動で胸がいっぱいだったので、気付けば衝動的にユイスを抱きしめていた。

「今日初めてお前がいてよかったと思った日はない! 二日ぐらいなら執務さぼらないからな!」
「やめてください人間臭いのがうつります! あと当然ですが毎日さぼらないでください」
「残念だ……」

 ジークが隅で肩を落としているが、俺は嬉しさにそれどころじゃなかった。

「なんだよ、ああいうプレイならそんなオプションなくてもしてやるっつの」
「本当か!」
「ああ、にゃんにゃんでもわんわんでもいくらでも鳴いて……はっ」

 残念なことに失言は全員に聞かれていたようで、多種多様な反応に耳まで真っ赤になってしまう。
 一人浮かれている魔王様は……とりあえず顔面を殴っておこう。


おしまい



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(C)siwasu 2012.03.21


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