03


 翌朝。廊下に出れば日課のように待っている二亜を視界に捉えてため息を吐くと、無言で鞄を押し付けた。
 そのまま真っ直ぐエレベーターに乗り込めば慌ててアホ面が追いかけてくる。

「おい、俺は召使いじゃねーぞ」
「あかん、ほんまにもー無理。お前の兄貴どうにかせえや」
「なにかされたのか?」

 眉を寄せて抗議してきた二亜が俺の言葉に首を傾げて顔を覗き込む。

「ちゅーされた……」
「それで?」
「顔思っきし殴った」

 おい、笑うとこちゃうぞ。お前好きな相手が他の男にちゅーされた言うてんねんから嫉妬ぐらいせぇや。
 半眼で睨み付けるも効果はなく、ひとしきりザマアミロと呟きながら笑い終わった二亜が突然真顔になる。
 そしてエレベーターが目的の階に着く直前で顎を掴まれると、ムードもへったくれもないキスをされた。

「よし、消毒完了だ」
「っっっ、」

 顔面腫れるぐらいぶん殴ってやりたい。
 けれどエレベーターがゆっくりと扉を開いたので、俺はぶつけられない怒りを拳の中に押さえ込んだ。
 生徒達のいるロビーが見えると、俺の鞄を持ったまま足早に進んでしまった二亜の後を生徒と挨拶を交わしながら追いかける。

「西崎様、おはようございます!」
「ああ、おはよう。今日は午後から雨らしいから気を付けてね」
「西崎様!おはようございます」
「おはよう。この間の差し入れ美味しかったよ、ありがとう」

 かけられる声を返しながらも俺の足取りは徐々に早くなって、最終的には二亜が見えなくなったので「ごめんね」と頭を下げると走って追いかけた。
 あいつ、まさか俺の鞄持ってること忘れてんのとちゃうやろな!
 二亜と俺の登下校姿は皆慣れたらしい。元々同じ生徒会なので不自然なことではないし、最初こそ一部では「付き合っているのでは」と噂が立ったが、二亜の馴れ馴れしい態度と俺のよそよそしい態度に恋愛関係はないと判断されたようだ。
 最近では蟠りが消え仲良くなった友人同士だと思われている。
 俺の鞄を持って先に行く二亜を追いかける構図も、じゃれ合いなのだと思われているのだろう。

「か、会長、鞄……」
「あぁ、忘れてた」

 やっぱりか!
 人の鞄を持って自分の教室に入ろうとした二亜を引き止めれば、思い出したように自分の手の中にある二つの鞄の内一つを返してくれた。

「……やっぱむかつくな」
「? ……ああ、一応嫉妬してたんですね」

 微妙な反応だったから分かりづらかったがちゃんと嫉妬していたらしい。
 にしては何とも言えない表情を見せるので俺は首を傾げる。

「大丈夫ですか? 頭でも打ちました?」
「イラついてはいるが行かせたのは俺だし、昨日ある程度の予想もしてたから何とか自己処理で収まってんだよ感謝しろ」
「全く収まってないようでしたけど」

 消毒っつってちゅーした上に今もイラついてるんやん。
 返し辛い反応にどうしたものかと目線だけを周囲に向ければ生徒たちが聞き耳を立てていたので、これ以上込み入った話は避けたいと俺は耳打ちで話題を変えた。

「橘の方はどうやったん?」
「ああ、あいつ生徒会辞めるらしいぞ」

 が、二亜はあっさりと爆弾発言を残すと、予鈴が鳴り響く中俺の方を振り向きもせずに教室に入ってしまう。
 は?橘が生徒会辞める?いや、そらキュウリ好きで生徒会いる意味ないとかやったら分からんでもないけど。
 正直生徒会の中で一番マトモな橘が非常識なかっぱ巻きに引っ付いて職務放棄している時点でおかしいと言えばおかしい話ではあるのだ。
 気が強いとは言えないあいつのことだから生徒会のメンバー、というか会長である二亜に流されてかっぱ巻きについたのだと思っていたがどうやらそうではないらしい。
 二亜の様子ではこれ以上まともな話を出来る状態ではないだろう。と、いうか多分見た目には分かり辛いが苛立っているようなのであまり近寄って理不尽なパワハラやセクハラを受けたくはない。

(昼休み様子見に行ってみよかな…)

 きゅうりより先に橘をつかまえることが出来れば話も聞けるだろう。
 エンカウントしませんように、とだけ願って俺は先生が来る前にと自分の教室に入っていった。


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(C)siwasu 2012.03.21


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