「6月12日は…恋人の日…って何やねん、これ」 「見たまんまだろーが」 呆れる恋人は俺を一瞥すると、無言でカレンダーに書き込んだ記念日を修正ペンで消していく。 「カレンダー汚さんとってや、もう…」 「おい、コラ。なかったことにすんじゃねーよ」 俺は消した上から途切れた線を繋げるよう真剣に書いている一星を睨みつける。 しかし一星はカレンダーを元の状態に戻すのに必死なようだ。 「…エロい時はノリノリの癖に」 「っ!」 俺の呟きは届いていたらしい。動揺のせいか、波打つ線は翌週の日にちの上まで跨いでいる。 そして錆び付いたロボットのようにゆっくりと振り返り俺を見た一星の顔は、茹蛸のように赤かった。 「な、ななな、な、な…っ」 「こういうの何て言うんだ?ツンデレ?いや、ツンエロか?」 「じゃぁっっっかましい!!喋んなアホ!アホアホ星人!!」 「2回も言うんじゃねーよ」 喚きながらペンを投げ付ける一星は今日も今日とて絶好調である。 暴力的な部分も今は照れ隠しの行動と知ってからは俺もこうして受け取めて…って、おい、文鎮を投げるな。流石の俺もそれは死ぬ。 「お前暴れんのはいいけどよ、誰か来たら…」 「んなもん知る…っ「失礼する」…何か御用ですか?」 言わんこっちゃない。 この相変わらずの切り替えっぷりには流石にそろそろ慣れねばいけないのか。 眼鏡の蔓を持ち上げ冷めた視線を送る一星を見ながら入ってきた三亜は、案の定部屋を見渡して目を見開いた。 「…何かあったのか?」 「先程黄色いゴリラが突如暴れ出しまして…ようやく宥めることに成功したものの、ご覧の有様です」 「それは災難だったな」 「おい」 しれっと人に罪を被せる一星に半眼を送るも、どうやら三亜は信じたのか(お前弟を何だと思ってる)改めて用件を述べていく。 「ところで今から時間は空いているか?」 「何か?」 「お前の親衛隊長がまた捕まったから迎えに来てくれ」 その言葉に一星の頬が思わず引き攣った。 抱きたい男No.1の癖に行動力だけはありふれている副会長の親衛隊長は、一星と同じく今日も今日とて絶好調のようだ。 一星は溜め息をつくと、人差し指でこめかみを押さえながら口を開いた。 「…副隊長を向かわせます」 「お前の親衛隊だろ?」 「私も暇ではないので」 「黄色いゴリラが暴れられる程度は時間に余裕があるように感じるがな」 「っ」 言いながら髪を梳かれ、一星は嫌そうな表情を見せる。 そりゃそうだ。風紀室へノコノコと着いて行ってみろ。言いくるめられて留まるばかりか三亜のセクハラにあうのがオチだ。そして俺もそれを黙って見ている筈はなく。 しかしただ助けるのも釈然としない為、先程の仕返しにと笑いながら一星に向かって言ってやった。 「お前、今日用事あるじゃねーか」 「え?」 「カレンダーから消えても頭からはまだ消えてねぇだろ?」 「う…」 自分の頭を指しながらニヤニヤと浮かぶ笑みもそのままに一星を見れば、案の定今日一番の嫌な顔を俺に向ける。 そして三亜に向き直ると意を決したように言葉を紡いだ。 「…皇委員長、残念ながら今日は…予定が、詰まってまして」 苦虫を噛み潰したような表情で告げる一星に三亜は訝し気に片眉を上げる。 「今から黄色いゴリラの相手をしなければならないのです」 「何故だ?」 「………っ今日は……こ………恋人の日…なの…で…」 ざまあみろ。 一星の表情は見えないが赤い耳を見る限り相当悔しいのだろう。 三亜はそんな一星を見て目を丸くすると、苦々しい顔で舌打ちをしながら「早めに迎えを寄越せ」と言い捨て出て行った。 一星はまだその場で立ったまま動かない。 「一星」 「…」 「おい一星、黄色いゴリラの相手してくれんじゃねーの?」 「…っ」 一星は肩を一度震わせて、俯いたまま俺の方に近寄ると無言で開けていた膝の上にどっかりと座る。 「…ムカつく」 呟く声が震えているのに満足して、俺は髪に唇を寄せながらベルトを外しシャツを引っ張り出すと細い腰に手を這わす。 そして胸の突起に手が触れそうになる寸前で、突然現れた一星の手が俺の顔を叩いて止めた。 「ぶっ…おい、何すん……何だこれ?」 掌の感触がやたら固いと思えば、何やら視界には小さな紙袋が見えた。 黙ったままそっぽを向く一星に呆れつつそれを受け取り中身を確認すれば、金色の宝石が埋め込まれたピアスが現れる。 「一星、これ…」 「耳のジャラジャラしたやつ全部外せ、目障りや」 「お前なぁ、もうちょっと可愛い気のある言い方出来ねーのかよ」 「…ムカつく」 「だからそれはもう聞いたっつの」 「ちゃうわ」 何が違うんだ。 そう聞こうとして、俺は真っ赤な顔で目を潤ませながら睨みつけてくる一星に開いた口が止まった。 「今日が何の日か分かってない思われとったんが………いっちゃん、ムカつく」 あぁ、こいつ何でこんな可愛いんだよ。 意地っ張りで強情で負けず嫌いな恋人は、やはり今日も今日とて絶好調のようだ。 「とりあえずあれだな、セオリーとしては次に愛を確かめ合わなきゃいけねーんだよな?」 「…好きにせぇ」 折角だから今日ぐらい普段して貰えないことしてもらうか。 そんな思いを胸に、可愛い恋人を持つ俺も、今日も今日とて絶好調のようだ。 |おまけ 二「おい一星、十瑠に聞いたぞ。あっちは指輪なんだってな」 一「それがどーしたん?」 二「何であっちは指輪でこっちはピアスなんだよ?」 一「えぇー。そこは愛の大きさやし」 二「ほぅ。じゃあ俺の愛がまだ全部伝わりきってないっつーことか。任せろ」 一「任せたないわ!ちょっ、ちょっと待て!!流石に今日はもう無理…っ」 二「いっつもそれ言いながら喜んで腰振ってんのは誰だよ」 一「っっっ、あ、あほーーー!!!」 end. [ ←back|title|next× ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |