三回×ってワン・上(猫犬)R18



「ほら、直さん。ちゃんと可愛くワンって鳴いてください」
「ううぅぅぅぅぅ…」
「も〜、そんな唸り声じゃなくて」
「飛鳥……お前覚えてろよ」

 放課後の風紀委員室にある物置部屋で、俺は何故か耳に犬のカチューシャと首輪を付けられていた。
 目の前には満面の笑みの後輩。手には首輪に繋がっているリードを持っている。

「俺は今度の文化祭の見回り図を取りにきただけなんだぞ」
「だって最近、その文化祭の準備のせいで忙しくて直さんと会う暇なかったから……」
「ほぼ毎日部屋に押しかけてるじゃねーか!」

 確かに最近文化祭の準備が忙しく、飛鳥と学内で会う数はめっきり少なくなっていた。
 会長も、自身のクラスの出し物で何か揉めたらしく少しピリピリしているが、あれはおそらく委員長絡みだろう。あの二人、確か同じクラスだったし。

「だって直さん、行っても疲れて部屋では相手してくれないし」
「だからと言って何でこんなとこでこんなもん付けなきゃいけないんだよ」

 風紀委員室で一人書類整理してた飛鳥に相談があると言われるがまま物置までついてきたのが間違いだった。
 棚に並んだ押収したと思われるアダルトグッズに放心していると、気づけばこの状況だったのだ。

「あ、これ押収品じゃなくて俺が用意したやつなんで安心してくださいね」
「んなこと聞いてねーよ」

 思わず半眼で睨みつける俺に、飛鳥は拗ねた子供のように頬をふくらませる。

「俺、当日は直さんのわんわん姿見れないんですもん」

 その言葉に、俺はぎくりと肩を揺らした。

「……お前、なんで知ってんだ」
「聞いたから?」
「……箝口令しいてたんだぞ」
「えっとぉ」
「脅したな」
「それは…」
「脅したな?」

 詰め寄れば、飛鳥は目を泳がせて白状した。

「うぅ、だって、直さんが他の奴に尻尾振ってる姿なんて想像するだけで俺、怒りで客全員殺してしまいそうなんですもん」
「いや、確かにうちのクラスの出し物は犬猫喫茶だけど、どっちかっていうと頭から動物の被り物して接客するから、お前の想像してるようなもんじゃねーぞ、イロモノ系だぞ」
「それでも嫌なんですー!首から下は燕尾スーツなんでしょ!!被り物してるのをいいことに直さんのスーツから見えるお尻のラインを視姦したり、ましてや触ったりなんて思うと……」
「それを避けるために俺の接客は秘密にしてるんだろうが!」
「なんで直さんが秘密にしてまで接客する必要があるんですか!」
「料理音痴だからだよ言わせんな!!」

 生徒会も勿論クラスの一員として参加する決まりではいるが、俺のクラスは俺を売り物にする気はないらしく、本来裏方を任せる予定だった。
 しかし、壊滅的な料理の腕に頭を抱えたクラスの連中は、被り物をしていればバレないのでは、と俺をこっそり接客に回すことにしたのだ。
 犬猫喫茶は、頭から犬や猫の被り物をした生徒が接客するイロモノ喫茶だ。接客中は基本的に「ワン」か「ニャー」しか言えず、オーダーも入り口の案内係が先に取る形となっているので、接客中客と話すことはない。
 生徒会業務があるため準備を手伝えない、しかし調理には立てない、入り口の案内も顔が分かるため立つことも出来ないとあれば、接客に回るのは仕方ないことだ。

「何がそんなに嫌なんだよ」
「じゃあ直さん、会長が不特定多数に向かってワンとか言いながら頭下げてる姿、許せます?」
「…………許せん」
「でしょー!あ、なんか今自分で言っててすごく傷つきましたけど分かってもらえたのなら…っ」

 床を転げ回って悶えてる飛鳥を見てるとちょっと可哀想に思えてくるが仕方ない。だってお前が他の奴にニャーニャー言って媚びてても何とも思わないし。



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(C)siwasu 2012.03.21


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