【4】風紀委員長視点 「ねえ、委員長。僕、委員長と会長が末永く幸せになればいいと願ってはいましたが、なんでTPOとか会長の性格とか考慮していただけなかったのかと、責め立てる言葉が次から次へと湯水のように沸いてきます。でも、それぐらい気持ちよかったんですよね? そう思っていいんですよね?」 「…………」 俺は今、激しく後悔している。 「頼むっ、これ以上離れるなんてもう耐えられないんだ、俺を風紀に入れてくれぇ……!」 「いい加減にしてください、じゃあ会長は誰がするんですか!」 「お前がすればいいだろうっ」 「私は最後の責任を丸被りしなくちゃいけないような立場が死ぬほど嫌いなんです、甘い汁を吸って生きていたいので大人しく帰ってきなさい!」 「正直過ぎるにも程があるよ副会長、もうちょっと会長が戻りたくなるようなウソ考えないと」 「あの、そろそろ業務に差し当たるので、生徒会の皆様は出て行ってもらえませんか……」 ぎゃあぎゃあと騒がしい風紀委員室には現在委員の他に生徒会役員と恋人、それにそのファンまで押しかけてきていて、すし詰め状態だった。 いくら顔がいい男たちが多いからといっても、所詮は男。むさ苦しい空間は熱気が立ち込めていて、春だというのに夏のような暑さを感じる。 あれから思い出すのも恥ずかしくなるほど睦み合った休日を終え、渋る恋人の背を押し登校したのはいいのだが、情事の名残と跡を一切隠そうとしない、むしろ自慢げに見せびらかす恋人についにファンたちが爆発したようだ。 昼休みに恋人を個室に追い詰め問い詰め、あわよくば行動を起こそうと企む彼らだったが、逆に委員長こと俺がいかに格好良くて素晴らしい存在であるかを放課後まで聞かされ、洗脳され、脅され、最後には精神が崩壊寸前まで追い込まれたので、風紀委員室に謝罪と助けを求めにきたのだった。 そんな彼らのカウンセリングと、一応今までの分の反省文も書かせていると、朝から俺に会えなかった恋人が悲鳴を上げて嘆願書と共に駆け込んできた。後ろには慌てて追いかけてくる副会長と会計付きで、だ。 そして収拾のつかなくなった風紀委員室を、こめかみに青筋を立てた副委員長が見渡して冒頭に戻る。 「こんなことになるとは……」 「いや、でも一応ファンの暴走は片付いたわけですし」 「そうそう、今日はアレでも明日から平穏な日常が戻ると思えば」 項垂れる俺を委員たちが必死にフォローしてくれるが、副委員長の怒りは暫く収まらないだろう。 「分かりました、それではこれでどうですか?」 さてこの状況をどうしようかと考えていると、副会長が手を叩いて風紀入りを騒ぐ恋人の気を引いた。俺たちも、ついそちらの方向に視線が動く。 「会長の仕事場を風紀委員室に移動しましょう」 「なっ」 風紀委員の面々が驚いて副会長を凝視する。 いつの間にか現れた書記が、重そうな机を慎重に俺のデスクの横に置いた。ずしん、と響く音によく一人で持てたな、と心中でつい感心してしまう。 「それなら会長は会長のまま、業務も多少の移動が面倒なだけで問題ないし、何よりずっとゴリラと一緒にいれますよ」 「お前は天才か……!」 目を輝かせた恋人が副会長を崇めるように手を組んで称えだした。 「ちょ、ちょっと、こっちはまだ許可していませんけど」 「許可なんて必要ないですよ、会長が印を押せばそれで決定です」 つるを持ち上げて得意げに笑みを浮かべる副会長の表情は、厄介者を都合よく追い出せて清清しいと言っている。確かに普段のあいつを見ている限り、生徒会室でもずっと俺の話しかしていないのだろう。なんてことだ、だからってこんなところで絶対的権力を使う気か、無駄遣い過ぎるだろう。 恋人は最早自分の世界に入って机の上を整理し始めている。五つほど並んだ写真立ての全てが俺の隠し撮りなことに若干の恐怖を感じるが、それよりも問題なのは血管が切れそうなほどの怒りを見せている副委員長だ。 「お、俺たちの平穏な日常」 「これから毎日惚気を聞かされるのか……」 風紀委員たちはまるで地獄に落とされたような表情で肩を落としている。 隅っこで反省文を書いていたファンたちは恐怖で動けなくなっているし、用件は済んだとばかりに生徒会役員は自分たちの長を置いて帰るし、肝心の長は俺の写真立ての角度に悩んでいるし、副委員長は椅子を壁に向かって投げつけているし、委員は葬式ムードで項垂れている。 一体この混沌とした部屋は何だ、秩序ある風紀委員室ではないのか。俺は、もしかしてとんでもない恋人を選んだのではないかと、若干の後悔を覚える。 が、嬉しそうに八重歯を見せて笑う恋人の表情に口元が緩んでしまったので、受け入れるしかない。 「風紀の仕事も手伝うからな」 そう言って力こぶを作り、やる気を見せる恋人に笑って感謝を伝える。生徒会長を務めるだけあって優秀な恋人のことだ、すぐに風紀の仕事にも慣れるだろう。 「よし、まずはお前をゴリラなんて呼ぶ奴らに、お前がどれだけ格好良くて格好良くて格好いいか泣いて感謝するまで教えて回るか」 前言撤回。 こいつだけは風紀に招き入れてはいけなかったかもしれない。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |