【3】生徒会長視点



 さ、さささささささ、誘ってしまった。恋人を、ついに自分の部屋に誘ってしまった。
 勢いとは怖いものだ。しかし今日も恋人は格好いい。俺を見て少しきょとんとした表情も、報告書を見る目付きも格好良かった。
 しかも今日は向こうから一緒に帰ろうと声をかけてくれたのだ。明日は休みだし、言うなら今しかないと思った。
 恋人は少し悩むように沈黙した後(そんな真面目な表情も格好いい)俺のもう一度繰り返した質問に小さく頷いて手を握り締めてくれた。俺と恋人を隔てたハンカチはぐっしょりと湿っている。正直取ってもいいんじゃないかと思うのだが、俺は恋人の照れ隠しのようなものだと思っていた。
 緊張しているのだろうか、だったら俺も嬉しい。

「ゆ、ゆゆ、夕食で食べたいのあったら、り、リクエストしてもいいぞ、難しいのは無理だけど」

 俺も緊張しているので思った以上に早口になる。誘いは気付いてくれていると信じたい。
 俺と二人きりの時は途端に無愛想になる恋人の顔を覗き込めば「和食、魚以外で」と小さな呟きが聞こえて頬が緩んだ。和食と呟く姿すら格好いいなんてこの恋人に欠点なんてあるのだろうか。
 生まれてきてくれてありがとう、本当にありがとう。

「じゃ、じゃあ二時間後でもいいか?」
「あぁ」

 返事と同時に手を強く握られて、愛しさに胸が苦しくなる。こんな幸せを堪能できるのも副委員長の後押しがあったおかげだ、感謝しなくては。
 寮に近付き恋人と一度別れて部屋に戻ると、俺は掃除を始めた。と言っても、いつ来てもいいように付き合ってからはこまめに掃除しているので、すぐに終わってしまうが。
 冷蔵庫の中身を見て買い出しは必要ないと判断すると、エプロンの腰紐を締めて気合を入れる。まずは胃袋を掴むために、俺は事前に自炊で練習していた料理を披露すべく包丁を握り締めた。
 ……それにしても隣を歩いている恋人の横顔は格好良かったな。
 思い出すとにやけが止まらず、あと少しで指を切るところだったが、特に問題なく完成した料理を丁寧に盛り付ける。食卓に並んだ料理に安堵の息を漏らすと、タイミング良く訪問の知らせが聞こえた。
 もつれる足を踏ん張って玄関まで出迎えに行けば、私服に着替えた格好いい恋人が立っていて思わず気絶しそうになる。

「大丈夫か?」
「あ、あぁ、入ってくれ」

 腰が抜けて転びそうになったが、なんとか壁によりかかって支えると、心配そうに見てくる恋人をリビングへと案内する。
 誘っておきながら今更どんな顔でいればいいのか分からず表情が忙しなく変化するが、食卓に並んだ料理に感嘆の声を漏らす恋人の格好いい姿を見たら全部どうでもよくなった。喜んでくれているのだろうか、俺を褒める姿も格好いい。

「く、口に合えばいいんだが」
「いや、どれも美味しそうだ……ありがとう」

 次の瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。
 なんだその笑顔は。俺の股間が完全に勃起してしまったではないか。なんて格好いい、いや可愛いんだ。この世界に恋人以上に格好良くて可愛くて笑顔が素敵な男が存在するだろうか、いやいないだろう。
 俺はこんな神にも等しい奴を恋人にしてバチが当たったりしないのだろうか。そんな不安に駆られたところで、動かない俺を心配した恋人が顔を覗きこんできた。これ以上眉を落とした表情を見るのは勿論格好良くていつまでも見ていたい気持ちもあるが心苦しいので、何とか平常を保ち股間を鎮めると冷めぬ内にと食事を勧める。
 向かい合うようにして座ると、箸を持ちおかずを口に運ぶ恋人の格好良さに鼻の奥がツンとするが、こんな状況で血を流すわけにはいかないと上向きになった。

「大丈夫か?」
「あ、ああ、あぁ、大丈夫だ。美味いか?」
「あぁ、この肉じゃが、俺の好きな味付けで箸が止まらないな」

 絶対に恋人の顔を見るな。
 既にいつもよりくだけた雰囲気に私服が相まって、今日の恋人は格好いいを通り越した最高の格好良さしかない。
 今目の前の表情を見たら絶対失神するであろう自分を叱咤しながら、若干薄目で恋人の斜め後ろぐらいに焦点を合わせる。

「やっぱり何かあるのか?」
「い、いいい、いや、自分で作っておいてなんだが、量が多いな。作りすぎた、遠慮せず存分に食ってくれ」

 不思議そうに小首をかしげる恋人が視界の端に見えて思わず目線が揺れるが、堪えて自分も箸を動かした。それにしても視界の端に映るだけで格好いいなんて反則だろう。
 結局ろくに食べた気がしないまま食べ終わった食器を片付けていると、恋人が居心地悪そうにしていたのでリビングのソファーをすすめたら、ぎこちない動きで手近にあった雑誌を手にとって寛ぎだした。
 な、なんか夫婦っぽくて恥ずかしいな。
 それにしても食後の時間をのんびり過ごしている恋人は後姿だけでも格好いい。三人掛けのソファーを狭く見せている大きな背中に熱い視線を送ってみた。何故皆はこの良さが分からないのか理解できないな。

「ま、まま、ま、待たせたな」

 後片付けも終わり、同じページを行ったりきたりしながら時間を潰していた恋人の横に座れば、恋人はホッとしたような、けれど緊張しているような笑みを浮かべて姿勢を正した。俺も思わず倣って背筋を伸ばす。

「こういう、関係は……慣れてないから、どうも気まずいな」

 苦笑気味にそう零す恋人の言葉にぐっと胸が締め付けられた。
 く、くそう、格好いい。今まで恋人にとっての特別な人間が少なかったと思えば経験なんて瑣末な問題だ。出来れば今もこの先も、いや残りの人生ずっと俺以外を好きになって欲しくない。

「お前はやっぱり慣れているというか、様になっている」

 心の中で一億回ぐらい好きだと連呼していると、少し寂しそうな目をして恋人が頭をかく。

「やはり釣り合わないと感じることもあるが」
「そっ、そんなことないぞ!」

 自信のなさそうな頼りない声も格好いいが、俺は周りから揶揄されるような見た目でも最終的に堂々としているお前の格好良さに惚れたんだ。
 見た目も中身も全部格好いいが、特に格好いいのは自分の価値を他人で決めようとしない芯の強さなんだ。

「お、おおお、お、俺はお前が好きだから付き合ってんだ、別に釣り合う合わないなんて周りが言うような評価は気にしなくていいだろ」

 俺の好きだけ受け止めてくれればいい。そして恋人にも好きを同じだけ俺に向けて欲しい。
 そんな欲望のまま切望した願いはすぐに恋人の言葉を反芻して霧散した。元々押して押した結果付き合ってもらっているようなものだが、第三者の感情を二人の関係に持ち込むようなことはなかったはずだ。

「俺のせいで何かあるのか?」
「お前は人気者だからな」

 否定しないってことは、あるらしい。こういう、変に隠し事をしないところも格好いいと思う。
 そういえば、付き合ってからまともに二人で会話らしい会話をするのは初めてかもしれない。いつも風紀委員に見守られながらアプローチしてただけだったからな。

「気にするだろうが、気に病む必要はない。元々俺がお前にふさわしくないだけだから」
「ら、しくないぞ。いつもは何だかんだ偉そうにしてるくせに」

 思わず悪態がついて唇にぐっと力がこもる。少し喧嘩腰のような言い方になってしまったことに後悔していると、大きな手のひらが俺の頭に置かれた。
 見上げると格好良くて格好いい恋人が少し困ったように笑っていて。

「いつもの自信が揺らぐほど、気持ちが傾いているということかもな」

 その格好良さに、俺はたまらず恋人をソファーに押し倒した。

「あ、も……無理だ、もう無理。このままじゃ格好良すぎて声だけでイっちまう」
「お、い」

 俺の突然の行動に恋人は焦って体を捻るが、動きを封じるように覆いかぶさるとムードもなく唇に噛み付いた。

「ん、う、っん」

 性急に舌を差し込むと恋人のものを絡めとって唾液を貪る。動けないように頬を押さえて厚い唇に何度も吸い付いては熱い舌を感じて体を震わせた。

「は、あっ」

 息が苦しくなった頃にようやく顔を離して見下ろせば、照れて赤くなった恋人の初めて見る表情に背筋が粟立つ。

「稲葉(いなば)……」

 欲に濡れた声が嗜めるように俺の名前を呼んだ。

「し、下の名前で呼べよ」

 強気に出て抵抗の少ない恋人の下腹部を触れば、若干の膨らみに唾を飲む。どうやら萎えていないようでホッとした。
 今日はそのつもりだったとはいえ、脳内で順序立てていた計画を結局は欲望のままに崩してしまった。自分の浅ましさを責めながら、けれど恋人が格好良すぎて格好いいからいけないのだと納得させる。

「奈々斗(ななと)」

 困ったように俺の名前を呼ぶ恋人が愛しくてもう一度唇を塞いだ。下半身を寛がせて下着越しの陰茎に触れれば、慌てたように体を押されたので唇を尖らせて抗議する。

「ダメなのか?」
「そういうわけでは……」
「だったらヤろう」

 正直、俺は我慢の限界だ。恋人はその気ではないのだろうかと心配になったが、下半身の主張は徐々に上向きになっていて、俺は口ごもる姿も格好いい恋人の言葉を待った。

「俺が、その、お前とそういった関係まで踏み込むのは」
「周りが許さないってか」
「……」

 押し黙る格好いい恋人に、焦れた俺はしなだれるように胸元に頭を預けて倒れこむ。

「だったら、だからこそ、周りが何も言えないぐらい俺がお前のものになればいいんじゃねえか」

 一層、全身に恋人の名前を貼り付けて見せびらかしたいほどだ。
 そう言えば、想像したのか軽く笑う恋人に俺は胸元に頭を預けた体勢のままシャツのボタンをはずしながら、恋人の厚くたくましい胸板に触れた。指先を掠める体毛がくすぐったくて、興奮する。

「な、なな、なぁ、都五利(とごり)。キスしたい」

 今更だが真っ赤になった顔を上げて恋人を見下ろせば、苦笑した恋人に腰を強く引き寄せられてじん、と下半身に熱が溜まる。

「ん、う、」

 今度は向こうも積極的なせいか、分厚い唇が俺の全部を食べてしまいそうなほど深く繋がって、俺は舌を絡め合いながら自分の下半身を布越しに弄った。完全に勃起したペニスは早く熱を出したいと下着の中で今か今かと震えている。

「あ、っき、気持ちい……」

 我慢出来ずキスを繰り返しながら恋人の上で一人自慰を始める俺に、咎めるような手が覆いかぶさって肩が揺れた。

「あっ、あ、とごりっ、それ、ヤバ……っ」

 股間を弄る俺の手を包んで射精を促す恋人の大きな手は、すぐに熱を高みへと追い詰めていく。流石にこんな所で先にイってはいけないと耐えてみるが、格好いい恋人が目の前にいる上に股間まで触っているのだ。緩急をつけて揉むような仕草をされれば限界なんて呆気なかった。

「あ、っむ、り、イきそ」

 俺は腰を震わせてみっともなく下着の中に射精する。開放感と同時に、内股に広がる不快感に足が落ち着きなく動いた。
 じんわりと湿る衣類に眉をひそめると、恋人は俺のスラックスを下着ごとずり落とす。べたべたに汚れた、まだ萎えない陰茎を直に触られて、思わず腰が浮いた。

「あ、またイくから、触んの、待っ」

 俺はまた疼きだす熱を感じながらやんわりと恋人の手を握ると、そっと離して何か言いたそうな顔にキスの雨を降らせて誤魔化した。そのまま体をずらしてシャツから覗く腰に噛み付きながら、恋人のすっかりかたくなった陰茎を取り出す。
 そして恋人が制止の言葉を声にする前に、その亀頭部分を口に含んだ。

「っ、稲葉」
「下の名前」
「……奈々斗っ」

 見上げれば、恥ずかしそうな表情の格好いい恋人が上体を起こして俺を見下ろしている。
 その視線だけで先走りを垂れ流している俺の下半身のだらしなさに少しだけ恥ずかしさを覚えながら、それでも初めて見る格好いい恋人の姿を見つめていたくて、陰茎を喉奥まで含みながら目を合わせた。揺れる瞳が熱に浮かされていて、興奮に背筋が粟立つ。

「ん、う」

 全部を飲み込みきれない大きさに、苦しさから目尻に生理的な涙が浮かぶ。
 そんな俺を見て興奮しつつも心配そうな表情を浮かべる恋人に笑みを返し、そろそろいいかと自分の下半身に空いた手を伸ばすと、尻穴からゆっくりとアナルプラグを取り出した。ぎょっと目を見張る恋人が、俺の出したアナルローション塗れのアダルトグッズを奪って呆れたような声を出す。

「お、前、こんなもの」
「と、途中で……止めるようなことに、なりたくなかったんだよ」

 陰茎をしっかりを舐め上げながら答えれば、恋人は赤くなった顔を手で覆って大きく溜め息を吐く。おい、格好いい顔が見えねえじゃねえか。いや、恥ずかしそうにしてる姿も格好いいけど。
 俺はある程度濡れて準備が出来た恋人の陰茎から口を離すと、膝の上に乗って首に手を回した。至近距離で見つめないと分からないのだが、恋人の目は若干緑がかっていて凄く綺麗なのだ。
 こんな恋人を何故皆ゴリラ呼ばわりするのだろう。
 いや、本当の理由は見た目だけではないことを知っているのだが。

「ほ、ほほ、本当は食後のデザート食ってシャワー入ってちょっと映画とか見たりして、そろそろ寝るかってベッドに入ったときに可愛く誘ってみようとかそんなこと考えて準備してたけど……む、むむ無理だ。だってお前格好いいんだもん、我慢とか出来るわけねえ。も、早く俺ん中に都五利のちんこ、いれたい」
「前々から言いたかったんだが、お前は初心かと思えば急に積極的になるよな」
「あ、ううっ」

 恋人の膝の上で向かい合いながら寄りかかってるせいで突き出た尻を太い指が滑ったかと思えば、前触れもなく挿入される。
 浅いところで抜き差しを始めるじれったさに腰が揺れれば、耳元に息がかかった。

「見た目でも分かる通り、何もかもが慣れてないから、多分離せないぞ」

 その言葉に俺は一瞬固まって、首に回した手に力をこめて抱きついた。むしろ望むところである。プロポーズまで格好いいなんてとんでもない男だ。

「だからお前は格好いいと言ってるだろう」

 そう返せば、苦笑と共に初めて恋人からのキスをされた。

「んっ、うう……あっ」

 同時に躊躇ない挿入と内壁で感じる圧迫感に、背筋が震える。熱く硬いものを中に押し込まれて、自分は今抱かれているのだと強く実感した。

「あっ、あっ」

 腰を突き上げられて深くなる挿入に、準備していたとはいえ苦しさを覚えるが、悦びの方が勝って無意識に背が仰け反る。

「は、あ」

 曝け出した首に恋人の唇が優しく触れて、それだけでイかない理由なんてなかった。二人の間を白濁が飛び散る。

「すごいな」

 感嘆の声に恥ずかしさを覚えつつ、躊躇うように首筋に噛み付く恋人の頭を引き寄せると、硬めの髪に頬を寄せた。

「こっ、ここ――いっぱい跡付けてくれ、見えるぐらい、いっぱい」

 耳元に唇を寄せて囁いた言葉は、恋人を煽るには十分だったようだ。
 腰を引き寄せられ、奥までいっぱいに支配した昂りが硬さを増して内壁を擦り上げる。首筋に強く噛み付かれ、痛みと苦しみと快楽が同時に俺のなけなしの理性を奪っていった。

「うっ、あ、あぁ、と、ごりっ」

 お返しだと恋人の首筋に唇を寄せる。シャワーも浴びずに始めたため、むわっと香る男性独特の匂いに興奮して内壁がひくついた。
 同時に我慢を忘れた三度目の射精は、律動の中ソファーを白く汚していく。

「なな、と、も……下の名前で、呼んでくれ」

 恋人の荒い呼吸に混じった望みは一瞬俺を躊躇わせたが、獣じみた動きに最早思考なんてものはどこかに消え失せていた。

「えっ、あ、ら、頼三(らいぞう)っ、らいぞ……っ」

 繰り返し名前を呼べば、腰の動きが乱暴に内壁を突き上げて腰が弾む。抑えきれない声と卑猥な音が部屋中に響いて、情緒もない行為はただお互いを貪り合うだけだった。

「悪い、中……、っ出す」

 恋人の短い言葉と耐え切れないように喉を絞める喘ぎに、俺は頷き返して首に回した手の力を強めた。

「くっ、ううっ、んっ」

 たくましい胸板に頭を預けていると、何度か突き上げられた後、恋人のものが中で震えて熱い昂りを俺に注ぎ込む。
 俺もその感覚に悦びから四度目の射精をした。締め付ける内壁は、恋人の性を搾り取るように収縮を繰り返す。中に恋人のものが残ったという実感に全身が震えた。
 荒い息を整えていると、唇を貪られてだらしなく涎が零れる。強く抱きしめあう二人の間には、確かに同じ想いがあった。

「な、な、なぁ、もう一回」

 躊躇いがちに強請れば、恋人が微笑んで唇に触れる程度のキスをくれた。あぁ、俺はついにこの格好いい恋人と繋がったのだ。じん、と胸が熱くなる。
 後のことなんか考えもせず馬鹿みたいに本能で貪りあえるのは高校生の特権だ。
 ベッドに移動してから朝まで続いた行為は、翌日俺の体を動けなくすることを知っていたとしても止まらなかっただろう。



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(C)siwasu 2012.03.21


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