Ex.副会長



※生徒会プチ2の無配。ゴリラ×副会長のお話です。



 突然の話で申し訳ないが、下駄箱に入っていたラブレターに告白の呼び出しがあったため校舎裏に来てみれば何故かゴリラがいた。
「ホッ?」
「いやいやいやいやいやいやいやいやなんでだよ!」
 思わず校舎の壁を殴りつける。ゴリラは相変わらず首を傾げている。
 ラブレターの内容は、それはもう可愛らしい丸文字で僕がいかに品が良くて美しく清廉潔白な男か書かれていた。
 なのに目の前にいるのはゴリラ。ラブレターとゴリラ。
 ……少し頭を整理しよう。
 この学園で一番――でないのは癪だが、二番目に眉目秀麗成績優秀な副会長を務める僕だから一般生徒がその偉大さに思わず手紙を綴ってしまうのは分かる。
 そして生徒会室を私物化する暴君気取りな会長と違って誰にでも平等で心優しい僕に憧れを超えた気持ちを持ってしまうのも分かる。
 ここで手紙を無視するのは簡単だが、あえて足を運び告白を断りつつも拒絶せず気持ちを尊重してやれば、僕の聖人君子のような人格に相手は感激の余り泣きながらその場で崩れ落ちるかもしれない。
 そうなればまた信者は増え、ゆくゆくはあのバ会長を蹴落として僕が唯一絶対の生徒会長に……。
 と、思っていたのだが指定された場所にいるのは確かにゴリラで、僕の顔を見るとソワソワと落ち着きなくその場を回りだした。
 毛深いだけの男とも考えたがどう見ても骨格が違う。人間じゃない。

 いや、ねーよ。ゴリラはない。

 なんで校舎裏にゴリラがいるんだというツッコミは置いておこう。なんせこの学園では既にスライムが生徒会室に入り浸っているのだから。
 先日、季節外れの転校生に少し夢中になってしまったぐらいでリコールされた僕だったが、副会長という座から降ろされた瞬間転校生には愛想を尽かされ、捨てられた現実が信じられず呆然と孤立していたら、親衛隊に泣きつかれたので渋々会長に頭を下げに行きなんとか許してもらっていた。
 形式上他の候補者と投票する形になり裏で手を回しまくった結果無事副会長の座に返り咲くことは出来たが、転校生にうつつを抜かしていたせいで信者はかなり減り今は元の状態と程遠い。
 親衛隊の数だって今は生徒会で一番少ない。
 しかも、生徒会長補佐として登録されているスライムの方が僕よりも遥かに親衛隊の数が勝っている。というか会長の次に多い。
 それを考えると、この際ゴリラでもいいから信者を増やすべきではないだろうか。
 モジモジと身体をくねらせるゴリラを半眼で見つめていると、突然ゴリラは何を思ったか僕に近付いてきた。
 慌てて後ずさるが、後方を確認しなかった為校舎の壁に追い込まれてしまう。
「っ」
 僕よりも大きい背丈が包むように覆いかぶさる。
 逃げようと横にずれるが、壁に叩きつけた手で道を塞がれた。所謂壁ドンというやつだ。
 しかし世間一般のものとは違い、バキッという、壁が破壊されたような音が聞こえたのは気のせいだと思いたい。
 僕ももしかしてこの壁と同じ運命を辿るのだろうか。
「ッホ……ウッホ」
 そんな僕にゴリラは顔を近付けてくると真剣な眼差しを向ける。
 それがなんだか格好良く見えた気がして思わずドキッとするが、首を振って我に返った。
 馬鹿か。ゴリラにときめいてどうするんだ。
「……すみませんが離れていただけませんか?」
 声は穏やかに、しかし突き出した手は強引にゴリラとの距離を離そうとする。
 しかし僕よりも遥かに力があるゴリラをそうやすやすと押しのけることが出来ず僕は眉を顰めた。
「くっ」
 何が悲しくてゴリラに壁ドンされて迫られなければいけないんだ。
 眉目秀麗成績優秀聖人君子のこの僕が、何故、ゴリラに!
 ついには全体重を乗せてゴリラを押していた僕だったが、それを見てゴリラは遠慮がちに後ずさった。
 ようやく離れてくれる気になったのは嬉しいが、体重を預けていた僕はそのままゴリラに向かってダイブする形で転んでしまう。
「わっぷ」
 僕に押されてゴリラも地面に倒れる。
 剛毛な腹に埋めていた顔を慌てて持ち上げると、ゴリラは恥ずかしそうに視線を逸らしていた。
 なんなんだこの光景は。
「お待たせしてすみません副会長! クラス委員長に捕まっちゃっ……て……」
 いつの間にかゴリラとの世界が出来上がっていた校舎裏に固まっていると、そんな声が曲がり角から聞こえて反射的に視線を向ける。
 現れたのは小柄で可愛らしい生徒で、息を切らしながら僕を見ると何故か顔を青褪めて口を手で覆いながら肩を震わせていた。
 もしかしてこの子がラブレターの主なのだろうか。
「ねえ、君――」
「ごごごごごごめんなさい! お楽しみのところお邪魔しました!」
 話しかけようとした生徒は、弾けるように顔を上げると矢継ぎ早にそう言って足をもつれさせながら立ち去ってしまった。
 一体何だと言うんだ。
「……ウッホ」
 唖然としている僕に、下から気まずそうな声が聞こえてくる。
 そこで僕はゴリラを見て、今自分がどのような体勢でいるかを理解し顔を真っ赤にさせて飛び退いた。
「ち、違うんだ、待ってくれ――ッ」
 慌てて生徒を追いかけようと振り向くが今更遅い。
 僕とゴリラしかいない校舎裏に、冷たい風が吹き付けた。

 後日「副会長にはゴリラの恋人がいる」という噂が学園中を駆け巡り、僕の親衛隊はゴリラのようなむさくるしい男たちで溢れかえった。
 会長には「お前って実はそういうのがタイプだったんだな」と勘違いされるし、周囲からはお尻の心配をされるし散々だ。
 ちなみにゴリラは今僕の寮部屋で過ごしている。
 流石に冬も近い寒空の中放置するわけにはいかないだろう。決してゴリラのことが気になったからとかそういうわけではない。断じて無い。
 あとゴリラの陰茎は三センチしかないんだから、いちいちボラ◯ノールを差し入れてくるのはやめて欲しい。
 ……なんで知ってるのかって?
 うるさいなあ、もう黙っててくれ!



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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