Act.02 俺は広貴(こうき)が分からない。 見た目は漂々としているようだが、内ではいつも何かを潜めていた。生徒会なんてものがなければ絶対知り合ってなかっただろう。だけど、だからこそ気になって気付けばあいつを目で追っていた。普段なら他人に干渉しない主義だが、何故か広貴には違っていた。 そんな俺は今、あいつが何を考えているのか分からなかった。 ■ 好き、怖い、嫌い、好き? (side 和真) 「和真(かずま)」 「あ?」 「…話、聞いてたか?」 「…う」 大雅(たいが)の言葉に俺は声を詰まらせる。 「…わりぃ、もう一回頼む」 「だからこの見積り書、もう少し詰めたら応援に行く生徒の数を増やせると思うんだが」 「それで応援団の荷物とか入んのか?あいつら大所帯だぞ」 「だからバス会社を少し高いがこっちにして、その分飲み物を持参するのはどうだろう?」 「あーそうか。風太(ふうた)ー」 「なにー?」 「お前ちょっと代表とここ話つけてこい」 「えー!それ広貴の仕事でしょー」 「今あいつ別件で明人(あきと)と籠ってんだよ」 「ちぇっ」 渋々向かう風太を見つめながら、俺は溜め息を吐く。広貴と「あんな事」があってから、見た目はいつもの日常と変わらなかった。ただ俺の負担が精神的にも体力的にも辛くなっただけで。 俺は陰鬱な気持ちのまま帰り支度をしていると、珍しく大雅が声をかけてきた。 「和真」 「ん?」 「夕食決まってないなら一緒に食堂行かないか?」 「あー別に構わ…「かずま」 俺の了承の返事を遮るように呼んだのは別室に籠っていた広貴だった。思わずビクリと震える肩を気付かれないように宥める。 「あとちょっとで鑑賞会の見積り書終わるよ」 「うん、あとは顧問にOK出してもらうだけだから」 後ろで明人が喜びながら広貴と入ってきた。広貴の目は疲れているのか少し虚ろで濁っている。 「和真」 「な、なんだ?」 「すぐ戻るから悪いけど仮眠室で待っててよ」 「なんだ。広貴と予定あるのか?」 「え?…あ…いや…」 「映画のレイトショー見に行こって言ってたの」 「ね、和真?」なんて言われて、首を横に振れる筈もない。大雅は俺に用事があると知るや否や早々に帰ってしまい、俺は残らざるをえなくなってしまった。近付く広貴に足が竦む。 「かずま、飲んでて」 広貴は猫撫で声で囁きながら俺の握りしめていた指をこじ開け一錠の薬を手の平に置いていく。無表情で言う声からは何も感じられなかった。扉が閉まって一人になった俺は眉をしかめてその錠剤を見ると、悩んだ末給湯室で水を入れて仮眠室に向かった。そしてサイドボードに薬と水を置きベッドに腰掛ける。 広貴が何を考えているのか分からない。 あれからあいつは俺への性欲と独占欲が強くなっただけで、それ以外は何もなかった。最初は吐いてり不眠症になったり拒食症になったが、思い切って広貴の存在を「日常」として考えてみたらそれはただの「ちょっと疲れる習慣」になってしまった。 けれどあれ以来、広貴の「欲しい」にそれ以上の感情は見えない。 俺はモヤモヤとした感情のままベッドに倒れこむと、サイドボードの上のものを見た。飲まないという選択もあるが飲まずに殴られるくらいなら飲んで優しくされたい。幸いあいつは、従順な俺には優しいから。まるで子供の遊びに付き合うようだと自嘲しながら錠剤を半分にすると、俺は半分を捨てもう半分を口の中に放り込んだ。 >> index (C)siwasu 2012.03.21 |