04*


   *****


「ん、」

 佐藤の指が、胸から流れるように陰茎へと滑っていく。
 寝室に移って衣類を全て剥ぎ取られ、生まれたままの姿で何も隠すことが出来ない俺は、恥ずかしさを誤魔化すように腰をひねった。

「ちょっと」

 しかし、佐藤が不満げに唇を尖らせながら俺を抱えなおして足を開かせる。
 お互い座った状態で向き合っているのだが、同じように全裸の佐藤を直視出来ず、俺は耐えきれず口元で手を覆った。
 電気を消して欲しいと頼んだが「全部みたいから」と却下され、何もかもが晒されてる現状に、今にも顔は噴火しそうだ。

「恭平、かわいい」

 羞恥が極まって泣きそうな俺の目尻に口付けが落とされる。
 それに悪態をつく気も起きなくて、俺は陰茎に触れている佐藤の指に手をおいた。

「は、やく」

 自分で思ったよりもか細い声が出る。
 上下に手淫されて、すぐに勃ちあがった陰茎がひくひくと震えた。

「恭平も触って」

 佐藤に言われるまま、俺も半分勃ちあがっているそれに手を伸ばす。何度か擦っただけですぐに固くなったことに小さな喜びを感じていると、口付けが落ちてきた。

「ん、んぅ」

 お互いの陰茎を扱きながら、舌を絡めて唾液を混じらせる。
 舌を強く吸われて、犬のように情けなく口を開きながら、俺は背筋を震わせた。唾液が二人の間に落ちて、指に生暖かい感触が伝わる。

「はっ、あ」

 うまく呼吸できない苦しさにに眉を寄せていると、ふいに佐藤が顔をずらして、耳元に唇を近付けた。

「ねえ、舐めた?」

 何を、とは聞かない。

「……知ってるんじゃねえのかよ」
「全部は知らない……て、いうか恭平を抱いた時のことは全く覚えてない」

 そう声を低くする佐藤の目は、嫉妬に揺れていた。

「ね、俺のも」

 けれど、すぐに強請るような甘い声が耳元で囁かれる。
 だから、俺はその声に弱いんだ。
 それだけで出そうになる嬌声を必死に押し殺して、佐藤の胸を押すと小さく頷いた。

「べ、別に上手いわけじゃねえからな」

 一言添えて、身体を屈めると、佐藤の股間に顔を近づける。
 改めてゴリラと違う大きさに、乾いた唇を舐めながら亀頭に唇を寄せた。伸ばした舌で先端を吸いながら、ゆっくりと口に含んでいく。

「ん、む……」

 括れた部分を、口の中で湿らせながら舌を絡めれば、気持ちいいのか小さく震えた。それが嬉しくて、裏筋に舌を押し付けて上下に擦っていく。

「ん、きもちい」

 佐藤が、俺の髪に指を絡ませて頭を撫でてくる。
 掌の温度が気持ちよくて口淫を続けていると、しばらくして腰を震わせた佐藤が俺の頬をすくった。

「出そ……」

 唇を離されて、顎を持ち上げられる。
 そして、空いた方の手で自分の陰茎を数回扱いた佐藤は、俺の顔面に向かって迷わず精を吐き出した。

「な……っ」

 顔中に飛び散る精子に、俺は思わず声を上げる。反対に、満足そうな表情を見せる佐藤は、亀頭に残った体液を引きつった頬に擦りつけてきた。

「へ、変態……」
「そう?」

 漏れた呟きに、佐藤は首を傾げる。甲で顔を拭いながら身体を起こすと、唇についた精液を舐めとられた。
 そのまま深い口付けが落ちてきて、ゆっくりとベッドに押し倒される。
 いい加減唇が腫れ上がってしまいそうだと思っていると、サイドテーブルからローションを出した佐藤が俺の足をぐっと開いた。

「う、わ、ちょっ」

 股を大きく広げる体勢が恥ずかしくて、足を閉じようとするが、佐藤は邪魔するように自分の足を絡ませてくる。
 勃ちあがった陰茎も臀部の窪みも、全て佐藤の前に晒していると思えば顔が熱くなる。
 佐藤はそんな俺の気も知らずに、ローションを指に絡ませると、蟻の門渡りをなぞり、窪みにゆっくりと先端を押し付けてきた。
 解しながら侵入してくる異物感には慣れないが、初めてではない感覚にまだ余裕が残る。

「ん、ん……」

 長い指が、探るように奥へと進む。中をかき回されながら増やされた二本目の指に、圧迫感で息が詰まった。

「はっ、あ!」

 柔らかな内壁をこすられ、腰が震える。前立腺を直腸の壁越しに刺激されて、俺は大きく仰け反った。

「あ、あぁ!」

 膨らんだそこを、押したり指の先で小刻みに揺らされる。
 陰茎への刺激とは違う快楽に、意識が飛びそうになりながら、俺は精を吐き出したくて自分の陰茎に指を伸ばした。
 けれど、手淫を始める俺の手を、佐藤は制するように握ってくる。

「な、っんで」

 気持ちよくても、後ろの刺激だけではイくことが出来ない。
 困惑する俺に、佐藤は無言のまま指の動きを激しくした。

「あ、アッ、や――っ、へ、へん……!」

 イきたいのに、イけない。なのに、身体はどんどん昂ぶっていく。
 覚えのない感覚は、徐々に俺の思考を奪っていった。
 じわじわと腰から這い上がるように熱がこもる。脳に血が溜まって、目眩がする。
 そして、身体を揺さぶりながらようやく訪れる絶頂は、俺の知らない感覚で、何かが弾けるように、足を震わせた。

「嘘、あ、ア、あぁぁぁ――ッ」

 全身を突き上げるように痺れる感覚は、あの時とは違う、開放感がない。
 射精しないまま絶頂を迎えた俺は、全身に電流が走った後のように身体を痙攣させた。佐藤が内腿をそっと撫でてくる指にすら、敏感に反応する。

「ん、あっ」
「エロ……」

 佐藤の呟きは、今までにないほど欲に濡れていた。泳いでいた視線を向ければ、獰猛な獣のように燃えさかった深い緑色の瞳が、俺を捕食しようと見つめている。
 首筋から、ぞくりと熱が全身に広がった。
 佐藤は焦らすように脇腹、胸、耳を撫でて俺の残った余韻を昂ぶらせてくる。
 それに従順な反応を見せる俺の身体は、熱を吐き出せないままの陰茎を震わせながら、もどかしさに佐藤の手を掴んだ。

「も、いいから入れてくれ」
「何を?」

 まるで、その言葉を待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべる佐藤に、俺はこいつの隠された性癖に気付いてしまう。

「お前……とんだムッツリだよな」
「いつもと変わらないつもりだけど」

 つまり、お前はいつも俺に対してそういう目で見てたってことか。

「顔を見たらニヤけるし、抱きたいって言いそうになるから、我慢するのに必死だった」
「う……」
「皆は何を考えてるのか分からないって言うけど、俺はずっと恭平にこういうことしたいって考えてたよ」

 聞きたくなかった事実だ。
 今まで考えが読めないところがミステリアスで格好いいとか、人に興味がなくてストイックなところがいいとか言われ続けていたこいつが、実はこんなにも性欲に満ち溢れた男だと誰が思うだろう。

「ねぇ、何を入れて欲しいの?」

 意地悪そうに聞く佐藤の口角が上がる。
 俺は、惚れた弱みだと真っ赤になった顔を覆った。

「お……おま、お前の…………ち、んこ」
「もっと可愛く言って、おちんちんとか」
「お、おち…ん…ち…………だぁっ、もういいだろ! お前は俺を羞恥で殺す気か!」

 耐えきれなくなって、耳を真っ赤に染めながら佐藤を睨む。

「恭平が可愛いのが悪い」

 なのに、佐藤は蕩けそうな笑みを浮かべて口付けを落とすと、両足をぐっと持ち上げて、躊躇いなく自身の陰茎を窪みに押し付けた。
 ローションで滑りやすくなっているとは言え、指よりも太いそれに、身体が反射的に侵入を拒む。佐藤はローションを垂らしながら先端を滑り込ませると、蟻の門渡りを刺激しながら、こじ開けるように陰茎を押し入れてきた。

「ん、んぅ……っ」

 指よりも生々しく雄々しい感触に思わず力がこもる。
 小刻みに抜き差しを繰り返しながら腰を進める佐藤は、最後ぐっと強引に陰茎を突き入れて、息を吐いた。

「ア……ッ」

 身体を串刺しにされるんじゃないかと思うような衝撃に、俺は息を止めてシーツを握りしめる。
 ゴリラの時とは何もかもが違う、お前は犯されていると力づくで征服されているような感覚は、少し怖い。
 何かを探すようにシーツを指が這って、ようやく触れた佐藤の腕に、俺は縋るようにしがみついた。

「大丈夫だよ」

 優しく頭を撫でられて、少し落ち着いてくる。下半身が別物のように圧迫感で麻痺していたが、ようやく緊張が解けて、結合部の痙攣もおさまった。
 不自然なぐらい大きく広がったそこには、佐藤の陰茎が埋まっているのかと実感すると、言い知れぬ感情に胸が打たれる。へその下を押せば、佐藤のものを感じて笑った。

「まるでお前を食べてるみたいだ」

 言えば、中で応えるように佐藤の陰茎が波打つ。

「あんまり煽るようなこと言わないでよ」

 佐藤は、余裕がなさそうな、引きつった笑みで俺を覗き込んだ。

「俺を呑み込んで、食べちゃって、全部恭平のものにしていいよ」

 そんな告白に、俺は応えるように足を佐藤の腰に絡ませた。
 深く繋がって、内壁が震えると同時に、腰が抽送を始める。
 奥へと激しく突かれて、揺さぶられて、激しくなっていく動きに、俺は反射的に嬌声をこぼした。

「ん、ンンッ、あ……あ、あぁっ! あっ、や、ま、待っ、はげ、し……!」

 浮いた腰を掴まれて、乱暴に突き上げられる。荒々しく絶え間ない律動に、身体はひたすら快楽を追っていた。
 柔らかな内壁を抉られ、前立腺を擦られる。また無意識で自分の陰茎を握り込んだが、今度は咎められなかったので、俺は手淫を続けた。

「は、ぁ、あぁっ!」

 後ろと前の刺激に、急速に熱が昂ぶる。さっきイけなかった分すぐに訪れた射精感に身体を震わせていると、佐藤が陰茎を掴んでいる俺の手を握り込んで、激しく上下に擦り始めた。

「ア、ああ、あっ、だ、だ、めだって! イくから……ッ」
「イっていいよ」

 奥へと強く打ち付け、陰茎を刺激する佐藤は、促すように腰を深く突き入れた。前立腺を、先端で押し込まれるようにぐっと抉られて、背筋を駆け抜けるような快感が襲ってくる。
 同時に裏筋を指で強く擦られて、限界だった。

「ア、や、あぁっ! あッ、ア!」

 俺は悲鳴を上げるように声を上げて、腹の上に精をぶちまけた。さっき出せなかったせいか、何度も小刻みに震えながら搾り取られるように精を吐き出す陰茎を見つめる。

「は、あ……」

 放たれた熱に、頭がゆっくりと平常心を取り戻していく。
 いつの間にか、佐藤も同じように俺の中で果てていたらしく、腰を小刻みに揺らしながら震えていた。
 抱きしめたくて、手を伸ばせば口付けが降ってくる。

「ン――」

 そのまま押し付けられる唇の熱に浮かされていると、上半身を持ち上げられて肩が揺れた。

「あっ、う」

 まだ中には佐藤のものが入ったままだ。しかも既に固さも大きさも取り戻している。
 俺を膝に座らせて体勢を整える佐藤に、まさかと視線を向けると、深い緑色の瞳が弧を描いた。


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(C)siwasu 2012.03.21


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