「わぁい、お兄ちゃんだぁ!」 「イッショに帰ってくれるなんてめずらしいね」 あれから綿密に話を合わせて準備が出来た翌週。 俺は母親に「今日は自分と遊びに来る友人も車で帰りたい」と頼んで先に弟達と合流することにした。 小等部の正門にきた俺は、事前に話を聞いていたらしい二人の無邪気な笑顔を見て罪悪感に胸が痛む。 「悠人くん幸人くん、こんにちは」 「あ、礼央お兄ちゃんこんにちは」 「こんにちはぁ」 二人は後ろからついてきた土屋に気付いて行儀よく頭を下げる。おい、鼻を伸ばすな。今日の目的忘れてねえだろうな。 そう視線で訴えると、土屋は俺を見て思い出したように咳払いした。やっぱり一瞬忘れてたなこいつ。 「実はな、今日お前らに一つ報告があるんだよ」 そう言って俺は土屋に目配せすると、腕を取り横に立たせた。二人は小首を傾げながら俺達を見上げている。 「俺、こいつと付き合うことにしたから」 「付き合う?」 「土屋が俺の恋人になったって意味だよ」 その言葉に土屋は苦笑しながら弟達を見て頭をかいた。 二人は一瞬固まってお互いの顔を見合わせた後、困ったように眉を寄せる。 「……お兄ちゃん何言ってるの?」 「礼央お兄ちゃんは小さい子しか好きになれないんだよ?」 やはり知っていたか。あれだけあからさまな態度を取っていればこいつらも気付いているとは思っていたが。 「僕もね、まさかこんな大きくて、しかも男の隼人を好きになるなんて思わなかったよ、はっはっは」 訝しむ二人に土屋は俺の腰を引き寄せて笑った。 あまりの棒読みに頬が引きつりそうになったが、堪えて弟達に見えないよう背中を抓る。 提案してきたからにはもっとまともな演技が出来ると思ってたぞ、大根かよ。 「ばっかじゃないの」 「変なお兄ちゃんたち」 どうやら二人は機嫌を損ねてしまったようだ。 そっぽを向いて母親と待ち合わせている場所に足を向けるが、土屋が突然俺の腰をぐっと掴んで更に密着してきた。 「変じゃないよ」 土屋の真面目な声音に、二人が振り返る。 「僕は確かに小さい子しか愛せないけど、何故か隼人ならこうやってくっついても嫌な気分じゃないんだよねぇ」 土屋はそう言って弟達を挑発するように俺の頬を撫で始めた。思わず鳥肌が立って突き飛ばしそうになったが、握りこぶしを作ることで我慢する。 二人は俺達を睨みあげて距離を詰めてくる。 いつもの愛らしい顔はどこか強張っていて、試しに土屋の胸元を握りしめてみたらランドセルを持つ手に力が入った。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |