01


 マオとシスは光の剣を手に入れた。経緯と結果はともかくとして、剣はその存在自体が魔物たちの脅威となる。彼らにとっては大きな収獲と言えよう。
 二人はそれから一週間かけてホトリの谷を越えると、魔物の巣窟となっているダライア地方へ踏み入った。
 ダライア地方はセドリア地方より土地が狭い。魔王城もダライアの中央にあるため、徒歩で三日あれば辿りつける。
 シスは霧深い森を目の前に不安を覚えた。
 ここからは獰猛な魔物の数も多くなる。果たして無事に進めるのだろうか。
 しかし、アイテムボックスから出した剣を魔物の前に翳した瞬間、それは杞憂に終わった。
 剣から発する光に怯えながら後退る魔物たち。それを見たマオの表情を語る必要は無いだろう。高笑いを響かせながら、油断した魔物たちに切りかかっていく。
 セドリアでは滅多に見ない、獰猛だがレアな魔物のドロップアイテム狙いだ。
 震える魔物たちに襲い掛かる姿は、最早どちらが魔物か分からなくなるほどだった。
 そうして剣の力を借りながら順調に魔王城へと歩みを進めた初日。ダライアはセドリアと違い日が暮れるのも早く、二人は早々に野営を張った。

「もっと苦戦するかと思ったのに楽勝じゃねえか」
「それはあくまで光の剣の恩恵だ。油断していると足をすくわれるぞ」

 寝転びながら気を抜くマオに、シスは胸中で少しだけ同意しながらも忠告を投げる。
 確かにマオの言う通り、ダライアでの戦闘は思わず拍子抜けするほど呆気ないものだった。セドリアよりも上級の魔物は多いが、そのほとんどがシスとマオ――正確には光の 剣を見て萎縮してしまう。今も夜襲に警戒しているが、結界で守り突き立てた剣のおかげか、魔物の気配は一切ない。
 剣を正しく使えていた過去の勇者たちは、これ以上に容易だったに違いない。ダライアに入ってから魔王城に辿り着くまでの文献が少ない理由も頷けた。

「はいはい、分かってるよ」

 いつもの小言をあしらいながら、マオは早々に寝袋へと潜り込む。
 その様子を見て、シスは慌てたように詰め寄った。

「ね、寝るのか……?」
「まあ、起きててもすることねえし。シスも寝るだろ? 早く火を消してくれ」
「あ、ああ……」

 そう言って寝入ったマオに、シスは歯切れの悪い返事をしながら、結界を確認して灯りを消した。
 月明りもないため深い闇に包まれて、普段なら気にならない木の葉の揺れる僅かな音が耳につく。
 シスは寝袋に入り込むと、暗闇に慣れてきた目で、うっすらと見えるマオの影を見つめた。
 洞窟で光の剣を手にして以降、マオはシスに性的な行為を一切求めてこない。最初こそ喜んでいたシスだったが、三日も経てば不信感が募り、一週間経った頃には不安を覚え始めていた。
 性行為がない以外で変わった様子はない。クズな人間性は相変わらずだし、アイテムへのがめつさや卑しさもいつも通りだ。
 だとすれば、とうとうシスの体に飽きたのか。そんな考えを巡らせて、胸元のシャツを握りこんだ。
 散々好き勝手弄んでおきながら、飽きたら一切手を出さなくなる。そんな性格であることは百も承知だ。
 元々がクズなのだから納得はできる。
 それに傷つきながらも、シスはそれ以上に切羽詰まった問題に焦っていた。

(ま、また何もなかった……!)

 実のところ、シスは自身の中で日を追うごとに強くなる性欲を持て余していた。
 旅の中で調教された体は、マオを激しく求めている。
 しかし、今でこそ当然のように受け入れているとはいえ、最初の頃はあんなに抵抗しておいて、今更自分からみっともなく求めることなど、プライドが許さない。
 だから、今日も疼く体を抱きしめながら複雑な術式を頭の中で構築して耐えるしかないのだ。
 しかし、一週間以上放置された体はそろそろ限界に近い。
 布が肌を擦れるだけで意識してしまう。静かで暗い夜は、それが顕著に現れた。

「は、ぁ……っ」

 ほてる体に吐息を零して、シスは訪れない睡魔に眉根を寄せる。
 魔王城も近いというのに睡眠不足が続き、万全でない状態で討伐に向かうのは愚策である。
 せめて、眠れる程度に性欲を発散させた方がいい。ようやく覚悟を決めてそう結論付けると、シスは耳をそばだててマオが完全に寝入っていることを確かめた。
 動く気配はなく、安らかな寝息が聞こえてくる。
 シスはなるべく布ずれの音が出ないよう、ゆっくりと両手を下腹部に近付け下衣を脱ぐ。
 まだ反応を示さない自身の陰茎に触れてゆっくりと撫でてみれば、それだけでみるみる膨張していく様子に、どれほど欲求不満なのか思い知らされた。
 自慰の経験は何度もある。だが、週に一度あるかないか。それも、排泄のように事務的なもので、このように燻ぶる熱に浮かされながら――性的に触るのは初めてのことだ。
 シスは硬くなっていく陰茎を手で上下に擦りながら、漏れそうになる声を抑え込む。

「んっんっ、んっ、ふっ……ふー、ふぅっ、ふっ」

 徐々に動きも大胆になるが、その度に冷静になってマオの様子を窺ってしまうため、なかなか達することが出来ない。
 シスは、このままでは射精に至らないと、自身の体に指を這わせる。そして更なる快楽を求めて、おそるおそる胸へと手を伸ばしてみた。
 自慰に胸を使うのは初めてのことだ。シスは外気に晒され勃ちあがった乳頭に触れてみる。
 その瞬間、何度も弄られて敏感になったそこは、指先でぐりっ、と押し潰しただけで、腰を蕩かすような甘い刺激を広げた。

「ひっ」

 喉から抑えきれない嬌声が漏れて、シスは慌ててマオを見る。
 規則的な寝息に安堵しながら、シスはシャツを噛んでもう一度胸に触れてみた。


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(C)siwasu 2012.03.21


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