ついに魔王が復活した。 残虐非道な魔王は、たちまち人間を支配し、この世界を闇に染めあげるだろう。 それを阻止するため、魔王討伐の旅に出ていた勇者マオとオナホ――第三王子シスは、魔王を唯一倒せる光の剣を手に入れるべく、エルフのいる洞窟に訪れていた。 光の剣は、エルフの集落で代々守られており、試練を乗り越えると勇者へ託されるらしい。 その伝承に従って来た二人だったが、目の前に現れた障害に立ち往生していた。 「どうすんだよこれ」 「どうって……」 大きな分かれ道も無く、道なりに進んできた先に現れた壁と、一つの穴。 覗けば向こう側に住居らしきものがうっすらと見える。おそらく、この先がエルフの集落なのだろう。 だとすれば、おそらくここが入り口なのだが、二人はその穴を見て考え込む。 腰上辺りにあるその穴は、大人の男が通り抜けられるかどうかギリギリの幅だった。 洞窟に住んでいるエルフは、正確にはドワーフとエルフのハーフにあたるドルーフという種族だ。純血のエルフが絶滅してからは、主に彼等がエルフという扱いを受けている。 そのため、本来ドルーフであるエルフは人間の腰ほどの大きさしかない。この穴もきっと難なく通り抜けられるはずだ。 しかし、シスとマオが通るには若干小さいように見える。 魔術で穴を広げることも考えたが、どうやらエルフの結界が張られているのか、術を施すことができなかった。 方法を考えていると、しゃがみこんだマオが穴を見つめて言う。 「頑張れば通れそうじゃね?」 「そうだろうか」 「俺ら二人とも細いからいけるだろ」 そう言われてみれば、確かにシスとマオなら通れそうな幅に思えてくる。試しに自分の肩幅を合わせてみると、身を縮めれば問題はなさそうだった。 「なら僕が先に行こう。向こう側が安全かも確認したい」 シスの提案にマオが頷く。道中ある程度片付けているが、通り抜けている間に魔物が現れても厄介だ。 念のために結界を張ると、シスは穴に腕と頭を潜り込ませる。 マオの言う通り、穴は肩を狭めれば通り抜けることができた。 壁の厚みは、二十センチほどしかなかったようで、すぐに上半身を向こう側へ押し出すと、シスは壁に両手を置いて踏ん張る。 腰が穴を滑り、あとは下半身を残すのみという時だった。 「っ!?」 体がある一定の場所から詰まってしまった。 腕を突っぱねて強引に引き寄せるが、穴に阻まれてそれ以上は通ることができない。もがいていると、様子に気付いたらしいマオの声が聞こえてくる。 「どうしたんだよ、早く行けって」 「……これ以上は進めない」 歯切れの悪いシスに、マオが首を傾げる。 「そっちで何かあったか?」 「い、いや、その…………つっかえてしまって」 恥ずかしくて小さな声になってしまったが、マオの耳には届いたらしい。 マオは数度瞬きすると、穴のあった場所にハマって動けずにいるシスの尻を見て、これでもかと言うほど爆笑した。 「ぎゃっははははははははははは!」 「わわわわわ笑うな……っ!」 「ひっひーっ、むりっ、ははっ、そうだった、お前のケツのデカさ計算に入れてなかったわ」 「うー、うるさいっ、好きで大きいわけではない!」 言い返すも、この状況では何を言ってもマオを笑わせるだけだろう。実際、マオは腹がよじ切れんばかりに悲鳴を上げている。 「ぶふっ、ふっ、くくっ――よし、じゃあ手伝ってやるよ」 ようやく落ち着いたのか、そう言ってマオがシスの足を掴む。 まさか、こんなところで辱めを受けることになるとは思わなかった。 シスは羞恥で頬を朱に染めながらも、マオに礼を言う。 「すまな……っていたいた痛いいたい痛い! 押すな! これ以上は入らん……ッッッ!!」 どうやら強引に穴へと押し込もうとしているようだ。 だが、穴に入りきらないシスの双丘は、壁におしつけられるばかりで一向に進まない。 「いや頑張ったらいけるって、ほら」 「あああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「あ、ほら、ちょっと入った」 「やめろぉぉぉぉぉ!! それ以上は僕の大事なところが潰れるーーーーっ!」 ごり、と嫌な音がした。 これ以上は、進んだとしても穴に圧迫されて男の象徴が潰れるだけだろう。 通り抜けることを諦めたシスは、体を引いて戻ろうとする。 「もういい! 引け! 引いてくれ……!」 「しゃーねえなあ」 悲痛な叫びが通じたのか、マオは足を抱えなおすとシスを引っ張り始める。 しかし、今度は胸まで抜けたところで、それ以上進まなくなってしまった。どうやら、入った時のように上手く肩を狭めることができないようだ。 「ま、待て、肩が通らな……ッいぃぃぃッッ」 「え、何か言った?」 「腕がちぎれる! 死ぬ! 死ぬ! やめろぉっ、引っ張るな……!!」 「押すなって言ったり引っ張るなって言ったり、我儘な奴だな」 シスの願いを聞いて手を離したマオは、呆れたようにため息をつく。 押しても駄目、引いても駄目。 悲しいことに、シスは厚さ二十センチの壁にハマったまま身動きが取れなくなってしまった。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |