「あれはプラントーブ。魔王復活と同時に現れる上級の魔物だ」 「ってことは魔王がついに復活したのか」 「どうやらそうらしい。しかし、ダライア地方の魔物が何故こんな場所に現れたのか……」 「お前さ、なんか格好つけて話してるけど、下半身はまだフルチンのまんまだかんな?」 「ううううううるさいッ。とにかく、まずはあれを討伐するぞ!」 プラントーブはようやく状況を理解したのか、シスとマオの方に体を向けると、何十本もの触手を振り上げながら近付いてくる。 だが、おぞましく蠢く気味悪い食人植物を見ても動じないマオは、プラントーブに人差し指を向けた。 「お前、よくも人のオナホを好き勝手しやがったな。オナホの共有は性病が移って危ねえって知らねえのか」 「はぁっ!? 僕は性病なんかじゃないぞ!」 シスは怒声をあげるが、マオは聞いていないようだ。 真面目な表情でプラントーブに説教を続ける。 「せめて借りるなら金払えよな、金。最低でも銀貨八枚。持ってんのか? あ?」 「勝手に人を売るんじゃないっ! それに、この国で人身売買は禁止され――って貴様もか!」 マオの言葉を受けて触手の根元から銀貨を探すプラントーブに、シスは先ほどまで自分が襲われていたことも忘れて、思わず声を張り上げる。 しかも銀貨は六枚しかないらしい。 それを見て、ふざけんなと唾を吐くマオと、どこか申し訳なさそうにするプラントーブ。 シスは、そこでようやくあることに気付いた。 (魔物と意思疎通できている、だと……?) 本来、魔物は意思疎通できる相手ではない。 上級の魔物のみ通じるのかもしれないと考えるが、少なくともシスの時は言葉を理解した素振りが無かった。 「……銀貨六枚でもいいぞ」 全く良くない。良くないが、試しにそう呟いてみた。 プラントーブはシスの言葉に全く反応を示さず、剣を抜いたマオ相手に後退っている。やはり言葉は通じないようだ。 眉を寄せてプラントーブを睨みつけていると、マオがシスの肩に手を置いた。 視線を向ければ、真剣な表情でこちらを見つめている。 「おい、自分を安売りすんなよ。お前のフェラテクは銀貨八枚以上の価値がある。誇っていい」 「…………」 見当違いな慰めに、シスは無言の半眼を向けた。 マオのことだ。もしかしたらこれも勇者の力の一端なのかもしれないし、人間性が魔物レベルだから会話ができているだけなのかもしれない。 勇者であると同時にクズを極めた男なのだ。有り得る話である。 どうやら意思疎通の時間は終わったのか、飛んでくる触手を切っては再生する相手を見てマオが舌打ちを落とす。 「おい、どうすりゃいいんだ」 「あいつは文献でしか知らない。今思い出しているから、少し時間を稼いでくれ」 シスの返事に、マオは汚物を煮詰めて作った鍋の奥底を見つめるような心底見下した目を向けると、唾を吐いてプラントーブに飛びかかった。 「…………」 時間を稼いでくれるつもりではいるのだろうが、使えないシスに対して向ける目は到底勇者のものとは思えない。 あの目は、どちらかと言えば人生に絶望し、目に入る者全てを妬む、底辺までおちつぶれた貴族がするような目だ。 「……このまま逃げても許される気がする」 一瞬そんな考えが脳裏を過ぎった。流石にしないが。 再生されていくとはいえ次々と触手を切り落とす剣さばきは、やはり経験を積んだだけあって目を見張るものがある。 シスは、飛び散る粘液によって動きが鈍くなったマオに身体強化の術を施しながら、記憶の引き出しを片っ端から開けてプラントーブの弱点を思い出していた。 プラントーブは中央に口のついた種子があり、そこからいくつもの触手を生み出している。普通なら種子が弱点だと思うだろうが、それは囮で、別の器官に生命力となる魔力が溜められている植物だったはずだ。 シスは、そこでようやく思い出した情報に声を張り上げた。 「触手の中にぬめりのない、色の違う触手があるはずだっ! それを根元から切り落とせ!」 シスの言葉に、迫る触手を片っ端から切り落としていたマオの動きが変わった。 探るようにプラントーブの周囲を走り回ると、剣を勢いよく振り回す。そして、飛び散る触手たちの奥で見つけたそれ目掛けて、真っ直ぐに剣先を突き立てた。 プラントーブは、弱点の触手が捕らえられた途端に動きを止める。唯一じたばたともがく薄紫色の触手がいたが、マオの取り出したダガーで根元を絶たれるとくたりと萎れていった。 ドロップアイテムである数本の蔓を残して消えたプラントーブに、シスはようやく安堵の息をついた。 [ ←back|title|next→ ] >> index (C)siwasu 2012.03.21 |