04


「シスは? 俺のこと、嫌いか?」
「きっ」

 嫌いに決まっている。
 そう口にしようとしたが、上手く言葉にならない。考えてみれば、許せないと思ったことはあれど、嫌悪まで感じたことは一度もなかった。
 マオは猫撫で声でシスに頭をすり寄せ始める。その変貌ぶりは、何か悪い薬草にでも当たったのかと思うほどだ。

「もしかして、俺たち……両想い?」
「それは断じて違う! 絶対に違う!」

 有り得ないとシスは顔を青褪める。
 仮にマオが勇者であることを加味して惹かれていたとしても、この男が恋愛的な好意を持つはずがないという確信だけはあった。
 概ね間違ってはいない。マオは、とりあえず穴があれば犬の尻だろうが突っ込んでみたい、と考えているほどのクズなのだ。今は目の前にシスがいるので、そんな気は起きていないようだが、いなければどうなっていたか分からない。
 シスは大きくため息をついた。
 マオのことだ。口淫だけでは物足りなくなったのだろう。人の欲は際限がない。欲求は性欲に限らず、ルーチン化すると飽きが生じ始めるのだ。
 シスはこの状況から逃れるため、マオの説得を始める。

「僕たちと違い、異界から来たマオにとって、恋愛や性行為は主に異性を対象としているのだろう。もしや、同性も好む性的指向なのか?」
「いや、俺は女の体を愛する立派な男だ。男相手には勃たん」
「だから僕が口淫で性欲を解消するという話ではなかったのか」

 シスの言葉に、マオがごそごそと握った性器を揉み始める。

「けどよォ、男には興味ないけど、シスのチンコは触れてるんだぜ。つまりこれは、尻にぶちこんでもイケるってことだよな」
「ちょっと待て、どうしてそこに飛躍する」

 相変わらずマオの理論は無茶苦茶だ。
 シスは覚え始めた頭痛に眉を寄せる。

「大体、性行為は口淫とはわけが違うんだ。正しい知識で行わなければ怪我をすることもある。我が国では、精通が始まった子を定期的に集め、政府が無償の講義を開くが、貴様は同性と行う際の教育など受けていないだろう」

 勿論シスも精通を迎えた時、教育係から知識を得ている。十五の時には実践も済ませているし、相手を傷つけることなく抱くことが可能だ。
 しかし、果たしてこの男がシスと同じようにできるだろうか。無遠慮に突っ込んで出すだけの強姦まがいな行為を想像して、思わず尻に力が入る。

「細けえな。同じ穴なんだから大体一緒だろ」

 やはり想像通りだった。
 ゾッとするシスを気にも留めず、マオは股間を押しつけてくる。

「なあ、ちょっとだけ。ちょっとだけでいいから」
「挿入にちょっとも何もあるか! くそっ、やはり性器を握られたままだと落ち着いて話もできない、一度離せ!」
「なーなー」
「だから離せと言っているだろう……!」
「素股でもいいからさー」
「分かったから離し……スマタ? なんだそれは」

 マオの口から出てきた聞き慣れない単語に、押し問答がピタリと止まる。
 首を傾げるシスに、マオは何度か瞬きした後ニヤリと笑った。
 そこには、先ほど見せた真面目な視線や甘えた空気などない。悪魔のような下卑た笑みが、美しい顔に貼りついている。

 嫌な予感がしつつも、シスは挿入以外でこの状況を収められる手段があるのならと、続くマオの言葉に耳を傾けた。










「こっ、これでは疑似行為ではないか……!」
「全然違うだろ」

 素股によって大幅なレベルアップが図れるかもしれない。
 そう聞かされた十数分後。
 シスの口淫によって勃起したマオの逸物は、潤滑剤の助けを借りて、シスの閉じられた股間をぬちゅりぬちゅりと行き来していた。
 下腹部から漏れる水音は、まるで性行為を想起させられて耳が熱くなる。内腿を垂れ落ちていく潤滑剤は女性の愛液のようで、それが更に羞恥心を煽った。
 何より、俯けば股間からマオの逸物が出入りする姿が視界に入るのだ。木の幹に手をつき、マオに尻を突き出すような恰好をしているシスは、目の前にある樹皮の模様を見つめながらその恥辱に耐えていた。
 素股が疑似挿入行為であると知っていたなら、頷きはしなかっただろう。
 マオが「尻には入れない」と言ったので安心していたが、彼の言葉を信用した自分が馬鹿だった。シスは後悔を覚えながら、もどかしい快楽を必死でやり過ごす。

 ぱちゅっ、ぱちゅんっ、ぱちゅっ、にゅぽっ。

「ん……ふっ、う、ンんッ」

 口淫と違い、自身の性器にも直接的な刺激が与えられる素股は、シスにとって苦痛に近いものだった。
 マオの亀頭が股間を通り抜けシスの逸物をその先で揺らすたび、腰に甘い痺れが疼く。体が揺さぶられるたび、腹と自身の亀頭がこすれ合い快感が背筋を伝う。旅に出てから一度も吐き出す機会がなく溜まっていた睾丸は、マオの逸物に刺激されて、今にも射精しそうなほど張り詰めていた。

「フェラと違ってお前も気持ち良くなれるんだから、ウィンウィンだよな。感謝しろよ」
「か、快楽を得たいなどと言った覚えはないッ!」

 小声で叫ぶが、相手は全く聞いていない。
 シスはあまり性行為や自慰に積極的ではない。性欲が淡白なせいもあるが、快楽に対してどこか後ろめたい気持ちを感じてしまうからだ。
 口淫は直接的な刺激がないため業務感覚で行えた。しかし素股はそうもいかない。体が痺れを感じ、生々しい音に嫌でも挿入行為を想起させられる。
 マオが腰を打ちつけるたびに振動が声となって零れそうになるのを、シスは唇をかむことで何とか押さえこんでいた。


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(C)siwasu 2012.03.21


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