ドS勇者×スライム



ファンタジー。企画作品。



 俺は今、自分のプライドを守るべく戦っている。
 時には一人で挑んだり近くに仲間がいる日は協力し合いながら、いつか俺達という存在が世界に恐怖を与えるであろう未来を夢見て、例え他の奴に馬鹿だと指差して笑われてもただひたすら戦うのだ。

「やい勇者!今日こそお前をやっつけてやる!」
「…いい加減諦めろよ。スライムが俺を倒そうなんて100年?いや1000年早いっつの」
「うるさぁーい!!!」

 俺はスライムのルル。
 今日も宿敵である勇者に立ち向かっている。



【エンカウント・ラブ】



 …と、言ってもいつもとお馴染みのパターンで倒されては頭上で勇者に溜め息をつかれていた。

「うぅ…魔法を使って仲間を倒すなんて卑怯だぞ!」
「卑怯じゃねーよ、嫌だったら魔法封じる呪文でもかけたら?」
「おっ、俺達が呪文使えないの知っててそれ言うか!」
「…言うね」

 意地悪く笑う勇者に悔しくなって、俺は起き上がると目の前の足に伸ばした触手を丸めて何度も殴りつける。

「おいおい、戦闘はもう終わってんだけど」
「ひぐっ、うるさいうるさいうるさーい!うわぁぁぁぁぁん!!」
「まぁ別にこれぐらいでヒットポイント減らないからいいけどさ…あ、1ぐらいは減るか?」
「嫌味か!?嫌味かそれ!?」
「事実じゃねーか」
「うぅっ、どうせ俺達はモンスターの中でも雑魚キャラだよ!皆に『冒険者のレベル上げ用』だの『経験値と金稼ぎの初心者向け』だのレベル高い奴なんかには『エンカウントするだけ時間の無駄』だの言われてるよ…!」
「なんだ自覚してたのか」
「うあぁぁぁぁん!やっぱりお前なんか嫌いだぁぁぁっっっ!!」

 何度も足をぽこすか殴り続けているが、勇者にはこれっぽっちも効いていないらしい。俺は悔しくて溢れる涙を拭いながら頭上で無表情に俺を見下ろす勇者を睨みつけた。
 勇者は数ヶ月前に異世界からやってきた男らしい。この国の国王に魔王様を倒して欲しいとお願いされて冒険を続けているのだが、暇さえあれば初心者用の森にやってきては俺達スライムを虐めていた。
 今日だって見たことないような魔法を使って仲間をどこかにワープさせていたから、レベルはかなり上の方の筈だ。
 それなのに俺達スライムを無闇に倒しに来るなんて、勇者は絶対鬼畜に違いない。

「ほーんと、スライムって感じしねぇなぁ…」
「わっ、こら!離せ!」

 いつの間にか勇者に持ち上げられていた俺は、焦って体を捩るとその手から逃れようと必死になった。
 けれど勇者はそんな俺に動きを制限する魔法をかけると、動けない俺を膝に乗せて座り込む。更に体の色んな所を突かれたり引っ張られたりして、俺は恥ずかしくなった。
 情けない。敵にいいように遊ばれてるだなんて魔王様に知れたらどうしよう…。

「俺やってたゲームのスライムとは全然形違うし。青くねーし」
「っっっなんでいっつも青ばっか強調してくんだよ!お前青色好きなのか!?」
「あー…いや。…好きなのは緑色」

 そう言って俺を真っ直ぐに見る勇者に、緑色の体をした俺は思わずドキリと鼓動が早くなる。
 俺達スライムには色んな色がいるが、この森で緑色のスライムは俺だけだった。

「そっ、そんな事言って油断させても俺は乗らないんだからな!」
「あー、はいはい」
「こらっ、だから体を引っ張るな…っひゃぅ!」

 急に俺を掌でこねくり回して遊んでいた勇者の指が体内につぷりと入って、思わず変な声をあげてしまう。
 慌てて口を噤むが、その声に目を丸くさせた勇者はすぐに虐めっ子のような顔させてにんまり笑うと、中に入れたままの指を動かし始めた。

「へー。お前、中弱いの」
「う、うるひゃっ、ひ…!っ、ひゃ、やらぁ、ぬ、抜けぇ…っ」
「やだ」
「おっ、おにっ!あくまっ!ひとでな…ゃあっ」
「あー…これは中々、クるな」
「あぅっ、も…っ」

 耐え切れなくなって思いっきり体を振ったらどうやら魔法の効果は切れていたようだ。勢い良く勇者の体からすぽんと抜けた俺はそのまま慌てて離れると、森の方へダッシュする。

「あ、おい!」
「お、覚えてろよ覚えてろよ覚えてろよ…!いつか絶対お前を倒してやる…っ!!!」
「あーうん、…ガンバッテー」
「畜生お前なんか嫌いだあああああああ!!!」

 まるで悪役の(いや、俺達魔物は人間からしたら悪役なんだろうけど)ような捨て台詞を吐いて、俺は泣きながらぴょんぴょん飛んで森の奥へ消えていった。見てないけど多分勇者はそれをニヤニヤ見つめながら手を振ってるはずだ。
 やっぱりあいつは嫌いだ。俺達魔物の、スライムの敵だっ。







「ルルちゃんまた勇者にエンカウントしに行ったんだってー?」

 後日。俺が森をプラプラしてると、スライム仲間の女の子達に声をかけられた。

「わっ、悪いかよ!俺だっていつか勇者を倒して魔王様や魔物達に認められるような凄い奴になってやるんだからな!」
「本当ルルってそればっかり」
「そーだよー!特技の『仲間を呼ぶ』で呼び出される私達の身にもなってよー」
「ぬぐぐぐぐ…」
「エンカウントされるなら兎も角自分から行くのはちょっと…ねぇ。負け戦じゃん」
「そう?私勇者の顔好みだから全然オッケーだけど」
「あんた本当イケメン好きだよねー」

 スライムの女の子達に囲まれていつの間にか雑談を始める様子に俺は居心地悪くなりながらもぞもぞと体を動かした。女子って何でこんなにお喋りが好きなんだろう。黄色とピンクと赤に混じった緑色は多分周りから見たら変だと思われてる気がする。

「で、ルルは勇者のこと好きなの?」
「はぇっ!?」

 どうにか逃げ出せないかと辺りをキョロキョロ伺ってたら突然一人の女の子にそう聞かれて、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。

「な、ななななな何言って…!」
「だっていっつも勇者見つけるなり飛びかかってるじゃん」
「勇者も結構嬉しそうだしねー」
「えっ、じゃあ両思い?きゃー!おめでとー!!」
「馬鹿言うんじゃねーよっっっ!!あいつは敵だぞ!俺達魔物の敵だぞ!」

 勝手に話を進める女の子達に俺は焦りながら誤解を解こうと必死になった。けれど流石女子とも言うべきか、俺の話なんか一切聞かず盛り上がる様子に溜め息をつく。
 兎に角一人になりたいと切実に願っていると、少し離れた所から俺達にしか聞こえない声が響いた。どこかで戦闘中のスライムが仲間を呼んでいるのだろう。

「あっ、誰か呼んでるっぽいね。ルルちゃんも行くー?」
「もうお前等といたくない…」
「だよねー、あはは。からかい過ぎちゃった」
「ごめんねー!今度また呼んでくれたら助けに行くからー!」

 そう言ってきゃいきゃいしながら呼ばれた方へ跳ねていく女の子達を見ながら、俺はようやく開放された安堵感に溜め息を吐く。ついでにさっきの会話を思い出して頭を振った。
 ないない。あいつは敵なんだから。
 …でもちょっと、ほんのちょっとだけ顔が赤くなってしまった。…くそ。







「あー…暇だ」

 あれから2週間。勇者はこの森にちっとも現れなくなった。いつもなら少なくとも週に2回は来てたのに。
 少し寂しいとか思ってしまう自分を振りかぶりながらとぼとぼ森を歩いていると、不意に仲間が助けを呼ぶ声が聞こえてそちらの方を向く。
 …どうせ暇だし、行くか。
 俺は声の方に向かって急ぎ足で跳ねながら、勇者はこのまま来ないんじゃないだろうかとちょっぴり胸が痛くなった。
 …いや、勇者が来なくなったら俺が倒すチャンスが減るせいだ。そうに違いない。

「ルル!」

 仲間の元へたどり着くと、何だか様子がおかしかった。皆何故か柵の中に捕われている。

「何これ…」
「来ちゃダメ!逃げて!」

 そう言う仲間のスライム達に、俺はそうはいかないと慌てて駆け寄ると柵を外そうと触手を伸ばす。

「どうしたんだよ!何だよこれ…っ」
「魔物ハンターだよ!あいつら、僕たちの声と同じ笛使って仲間を集めてるんだ…!」

 そういえば人間の中には魔物を飼ったり奴隷にしたり、剥製にして飾ったりする趣味の奴がいると誰かに聞いたことがある。

「何馬鹿なこと言ってんだよ!今外すから、そしたら皆で反撃―――」
「おっ、緑発見」
「っ!」

 振り返ると、どこから現れたのか多分張っていたのだろう。3人の冒険者が俺を見てニヤニヤ笑いながら近付いてきた。
 柵に背を預けながら、俺は冒険者達に威嚇する。けれどそんな俺を見て逆におどけるように口笛を鳴らす冒険者は、網と棒を持って俺を取り囲んだ。
 俺は先手とばかりに触手を伸ばして攻撃する。けれど、頑丈な防具を着ている冒険者達にはちっとも効かなかった。
 どうやらレベルがそこそこ高いみたいだ。

「威勢いいな、こいつ」
「たまにはこういうのも好きな奴いるんじゃねぇ?」
「うるさいっ!卑怯だぞお前等、こんなことして!」

 情けないことに、雑談を交わす冒険者達に呆気なく網で捕われた俺は悔しい気持ちになりながら噛み付くように吠える。

「なんで俺達なんかを捕まえるんだよっ!」
「そりゃお前達スライムが欲しいって人がいるからだよ」
「そうそう、こんな風に」
「ぎゃぅっ」

 突然網の間から俺の体に荒々しく2本の指が入り込んで、堪らず声を上げてしまった。
 そんな反応を楽しみながら、冒険者は指をぐいぐいと中に押し込んでいく。

「これからは精々お前達スライムにこうやって突っ込むのが好きな奴にこき使われるんだな」
「やっ、ひゃ、い、痛い…!」

 以前勇者の指が入った時とは比べものにならない程乱暴な動きに、俺は痛いのと悔しいのと情けないのとで悲しくなって涙がこぼれた。
 いくら初心者用のモンスターだって言われててもプライドぐらい持っている。だから、自分の非力さを実感するのは辛かった。
 ボロボロ零れる涙もそのままに、俺は冒険者達を睨みつける。

「お、俺達っ、だって…っ!俺達だっていつかはお前等人間をぎゃふんと言わせてやるんだからな…!」
「そーだそーだ、スライムだって人権ぐらいあるんだぞー。…いや、この場合スライム権?」

 聞こえてきた声に俺は目を丸くさせて冒険者の後ろに見える人物を見つめた。
 突然背後から聞こえた声に、冒険者達は驚いて振り返る。

「いくら魔物でも虐待は見過ごせないなぁ。勇者としては」

 何故かボロボロの体をしている勇者は、そう言いながら笑って冒険者達に向かって剣を構えた。
 俺達魔物のスライムを助ける為に、人間に向かって剣を構えた。







 どうやら勇者は見ない間に相当レベルが上がったらしい。ボロボロなのに圧倒的な力を見せ付ける勇者に、冒険者達はすぐに尻尾を巻いて逃げ出した。
 柵から助けられたスライム達はそんな勇者にお礼を言いながら去っていく。
 おいお前等。相手は勇者だぞ。何でそんな楽しそうに会話するんだ。
 未だ網の中に捕われたままの俺は、そんな仲間達と勇者のやり取りをジト目で見つめる。

「さて、と。…行くか」
「っ待てこら勇者!俺も助けろよっ!」

 用事は終わったと言わんばかりに去ろうとする勇者に、俺は慌てて声をかけた。

「え?お前俺のこと嫌いなんだろ?」
「うっ」

 意地悪く言われて俺は言葉をつまらせる。

「でっ、でも他のスライム達は助けたじゃないか!」
「だってあいつ等はお前と違って別に俺のこと嫌ってないし?」
「うぅ…っ」

 言われてみれば確かに仲間達は勇者に対してそんなに敵意を感じていない。
 むしろエンカウントしても逃がしてくれたりワープさせて別の場所に飛ばしてくれたりするから優しい、と話しているのを聞いたことがある。

「…助けて欲しいか?」

 ニヤニヤ笑いながら俺を見下ろす勇者に、俺は意地になってそっぽを向く。

「べっ、別にこれぐらい一人で抜け出せるし!」
「じゃあいいよな。頑張れよー」
「あっ、おい!」

 あっさり身を引いて去ろうと踵を返す勇者に俺は焦って呼び止めた。しまった。
 勇者は振り返ると俺を見て笑い、近付いてしゃがみ込む。

「で、ルルちゃんはどうして欲しいんだ?」
「うぐぐぐぐ…」

 屈辱を感じながら俺は下を向いて小さく声を出す。

「この網外せよ…」
「聞こえないし口が悪い」

 口が悪いって聞こえてるんじゃねーか!
 俺は自棄くそになって口を開いた。

「こ、この網外して…くださいっ」
「タケル様もいれて」
「は?」
「俺の名前。いっつも勇者って呼ぶから」

 そういえば俺の名前は仲間が勇者の前で呼ぶから知られていたが、勇者の名前は知らなかった。
 勇者…タケルは苦笑して網の間から俺をつつく。

「はい、ワンモアプリーズ。この網外して、俺をタケル様の恋人にしてください」
「何か増えてるじゃねーか!!!」

 俺は聞き捨てならない言葉に思わずつっこみを入れる。バレたか、と舌を出すタケルを呆れながら半眼で見つめた。

「大体俺達は敵同士だぞ!」
「敵同士じゃなかったらいいのか?」
「そっ、それは…」

 上げ足を取られて悔しくなりながら、もごもごと言い訳するように呟く。なんだ、つまり俺は勇者は嫌いだけどタケルは嫌いじゃないってことなのか。何を言ってるんだ俺は。
 そんな俺にタケルは笑って体を引っ張る。

「俺のこと嫌いか?」
「うっ…うぅ………嫌いだ」
「本当に?」
「嫌いだっ」

 タケルは意地悪くニヤニヤ笑う。

「いっつも自分からエンカウントしに来るくせに?」
「きっ、嫌いだ!意地悪だし、いっつも虐めてくるし、からかってくるし…!」
「じゃあ意地悪しなくて虐めなくてからかわなかったら好きってこと?」
「うっ…お前、さっきから上げ足取りすぎだ…!やっぱり意地悪だ!」

 俺はもぞもぞと体を動かしながらタケルの指から逃げた。
 けれどタケルはそんな俺をがっしりと掴むと、網ごと引っ張り上げて自分の顔に寄せる。近い距離に思わず顔が赤くなった。

「そりゃ、好きな子程虐めたくなるんだから仕方ないだろ」

 そう言って網の隙間から唇を俺の口に軽く当てるタケルに、俺は熱くなって体が溶けてしまった。
 ダメだ、俺、そろそろタケルのこと好きだって認めた方がいいかもしれない…。



「で、何でそんなボロボロなんだよ」
「ん?」

 網から助けてもらった俺は、タケルの腕の中で居心地悪くモゾモゾと動いた。何だか自覚してしまってから恥ずかしくてタケルの顔が見れない。
 そんな俺の頭をタケルは笑って撫でる。

「ちょっと魔王と戦ってきた」
「はぁ!?」

 それは聞き捨てならないぞ!

「あぁ、そうじゃなくて。話し合ってきた?って感じ」
「どういうことだ?」

 苦笑しながら訂正するタケルに俺は不思議に思って上を見上げた。体が熱くなる。
 

「お宅のルルちゃんをお嫁にくださいって言ってきた」

 笑って言うタケルに俺はまた体が溶けるのを感じてしまった。
 そんなの卑怯だ。

「やっぱりお前なんか嫌いだ」
「はいはい」

 宥めるように唇を寄せるタケルに拗ねながら思った。
 多分俺は初めてエンカウントした時から、タケルのことが好きだったのだろう。

 でも悔しいから絶対言うもんか。



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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