「あんっあんっあんっ、あっきもちいっ、すごくきもちいっっ」

「もうちょっと静かにしろよ……」

「あんっ、だめ、声我慢できないっ、あっあっあっあっ!」


 ホント、静かにしてよね……!

 ──私の住むアパートはボロとまでは行かないけれど、格安アパートで壁が薄い部屋があったりする。まさにその部屋のひとつがここと隣の部屋だったりするのだけれど、毎晩のように流れ込んでくる女の嬌声に悩まされている。

 毎晩毎晩、女連れ込んで……ちょっとは自重してよね!




「ふぁ……ねむ……」


 結局、今日も寝不足……。寝不足のせいで最近、肌もボロボロだ。なんとかメイクでごまかそうとは努力しているけれど、そろそろ限界かも。


「あ。おはようございます」


 玄関のドアを施錠しようとしたところで、不意に声をかけられて咄嗟に声のしたほうへ顔を向けると、ちょうど隣人と出くわした。
 ゴールドアッシュの髪色、前髪にヘアピンをつけたちょっと跳ねっ毛のヘアスタイル、整った顔のしたこの男が隣人だ。松岡さんって言ったっけ。


「おはようございます」


 正直、朝から会いたくない。


「昨日は遅かったンすか?」

「ええ、まあ」


 あくび見られてたか。っていうか、そもそも誰のせいだと思ってんのよ。


「お疲れさまです」

「ありがとうございます……。じゃあ」

「はーい、いってらっしゃーい」


 なんて呑気な男なんだ。呆れて文句も言う気になれない……。

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