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「おはようございます」
黒川結、大学二年生。
一流企業のビルが立ち並ぶオフィス街の端に立つ、この『レ・エ・カフェ』というカフェに働きはじめて早二年となった。
立地の関係もあり、OLさんやサラリーマンを中心に、カフェの周辺にはレストランや食堂などの食べ物屋もあるため、幅広な年齢層の方が来店する。
だから、たかが二年かもしれないが、毎日通ってくれるお客様の顔は半年もかからずに脳に定着するし、月に何度も同じ顔を見ればそれなりにオーダーも分かってくる。
それに、二年もいればお客様の表情から何を考えているのか、何があったのか、大体を察することも難しくなくなってきている。
「おはよう、結ちゃん。今日もいつもの、よろしくね」
この方は近所に住む大手広告代理店で働くOLさん、優子さん。
今日もばっちりとできる女性を演出した姿で、物腰柔らかく挨拶してくれる。
「はい。ミントティーチョコレートプラペチーノと、スクランブルエッグモーニングセットですね。あと、食後にベリーヨーグルト」
「うん。よろしくね。あと、ランチにオススメのサンドウィッチを持ち帰りで」
「分かりました。では、お先に会計を」
「はい、どうぞ」
優子さんから受け取り、お釣りを返すと、注文のものが来るまでに昨日の仕事の──主に愚痴を聞いていると、朝食が運ばれてくる。
優子さんはトレイを持って「じゃあ、またね」と上のイートインスペースに繋がる階段を登っていった。
「おはよう、黒川さん」
「あっ、店長。おはようございます。──今日は昼でしたよね。また、ここで朝食とって行かれるんですか?」
「おお、その通りだよ。黒川さんはホント、覚えるのが早いね」
「はいはい……。じゃあ、いつものでいいんですね?」
「よろしくね」
この少し掴みどころのないおじさんはこのカフェの店長だ。
出勤が昼だとこうして自分の店で朝食を取り、またフラ〜っと消えていつの間にかバリバリに働いている。
「相変わらずなんだから、店長は〜」
「そうですね」
私の背後からひょっこりと顔を出したのは、バイト仲間──私より三つ上の真美さんだ。
今はフリーターだが、ゆるふわ可愛い系女子のため、言い寄ってくる男性客が多く、そのお客からよくしてもらっているらしい。
だから、いつもブランドものの服やアクセサリで着飾っている。
「真美ちゃん、ちょっと来てー」
「はーい。じゃあ、結ちゃん。がんばってね」
「はい」
真美さんは他のスタッフに呼ばれ、店の奥へ消えていった。
「おはよ、結ちゃん」
「おはようございます。──忍田さん」