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「今日もいつものでよろしく」

「はい、かしこまりました。ブラックコーヒーと、はちみつがけトーストですね」

「うん、よろしく」


 このきちんとスーツを着こなした、爽やかな男性は忍田さん。
 忍田さんは大手IT系会社に務めているらしい。


 忍田さんは家で朝食はとってくるらしいが、ここのコーヒーとはちみつがけトーストがお気に入りだとのこと。


「はい、どうぞ」

「ありがとう。もう、結ちゃんもここに来て2年だっけ?」

「はい、そうですね」

「そうかぁ。早いね。結ちゃんは毎朝いるから、一日が始まるって感じだよ」

「あはは、ありがとうございます」

「今日もがんばってね」

「はい」


 お気に入りのメニューを持って、忍田さんも二階へ向かったのだった。


「あれ!? 結ちゃん、忍田さんは?」


 忍田さんの背中を見送ってすぐ、真美さんが残念そうにトーンを落とす。


「あ。忍田さんならもう上で食べてますよー」

「えー!? そんなぁ……」

「私は見たわよ、へへーん」

「ず、る、い〜っ!」

「相変わらずかっこいいよねえ、忍田さんは」


 あちこちから忍田さんに関する話題が飛び交う。
 忍田さんの人気はかなり根強く、忍田さん狙いでシフト変更までする人もいるぐらいだ。


 相変わらず人気だなぁ、忍田さんは……。


「お疲れ、黒川さん」

「立花さん。お疲れ様です」


 立花さんはこのカフェのチーフで、いつもにこやかで、現場では常に冷静な判断をくれる。
 そんな頼りがいのあるイケメンな立花さんを目当てに、カフェで働くきっかけとなった女性も多い。


「いつも、朝に入ってくれてありがとうね。黒川さんが朝に入ると、お客様もいい顔してくれるんだよ」

「ホントですか? ありがとうございます!」


 この接客法は立花さんに仕込まれたもの。
 お礼を言いたいのは、こちらの方だ。


 少ししてから、食事し終えた忍田さんがカウンターへトレイを返しにやって来る。


「ごちそうさま、結ちゃん。──ん、これは立花さん。おはようございます」

「ああ、忍田さん。おはようございます。今日もご贔屓にして下さり、誠にありがとうございます」

「いえいえ。今日も相変わらず美味しかったです。立花さんが作ったはちみつがけトースト」

「それはよかったです」


 トースト関連のメニューは全て立花さんが立案したもので、かつその料理は大抵が立花さんが作ってくれているものだ。
 立花さんのトーストは焼き加減が絶妙で、チーフ以外の人が作ってしまうと、固すぎたり、焦げが多いなどの不格好なトーストにできあがってしまうんだ。


「じゃあ、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいませ」

「ありがとうございました!」


 ──様々な人が来店し、そして各々辿り着く場所へ向かっていく。
 そんな姿のお客様を見守ることから、私の一日が始まる。
 最初は学費を稼ぐためだけのバイトが、いつしか楽しくなっていたのだ。

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