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「え……結ちゃん?」
「あっ」──悶えているところで忍田さんの存在に今さら再認識して、途端に顔が熱くなっていくのがわかった。
「ははっ、結ちゃんは意外と体現しちゃうタイプなんだね?」
「ち、違いますっ」
「じゃあ、当ててみよっか。その蝶がついたブレスレット、欲しいんでしょ?」
「えぇっ! あ、当たってます!」
「やったっ。やっぱり判りやすいなあ、結ちゃんは」
ははは……と笑う忍田さんの声に、私はますます恥ずかしくなった。
「どれどれ」
「えっ」
ふっと暗くなったかと思えば、私の背後から忍田さんの腕が伸びてきて、ブレスレットを手にする。
タグを見て値段を確認した忍田さんは「ふむ」と漏らして、お財布を取り出した。
「これが欲しいんだろう? 買ってあげるよ」
「えっ! そ、そんな悪い──っ!」
後ろにいるとわかっていて硬直していた私の体だが、ばっと首だけ動かしたものの──すぐ顔の真横に忍田さんの顔があると認めてしまったら、本当にすぐ背後に──ほぼ密着する形で忍田さんがいると思って、今度は頭の中が大パニックを引き起こしている。
「いいよ、俺が買ってあげるから」
「で、でも、そんなの悪いです……っ」
「いいって。結ちゃんの細くて白い手首なら、きっと似合う。いや、似合うね」
「な、なんでそんなに断言ですかぁ……?」
「そりゃ、結ちゃんが目をつけたブレスレットだからね。自分に似合わないもの、普通は目に留めないでしょ?」
「そ、そうですか……? でっ、でもでもっ、やっぱり悪いです! こっ……この前だって……奢ってもらった、し……」
「この前はこの前。今は今でしょ? ──じゃあ、買ってきちゃうね」
「あ……っ」
忍田さんはまっすぐにレジに向かってしまった。
そして、本当に購入してしまう……。
この前だって奢ってもらったばっかりだったのに……。
それに──忍田さんのぬくもりがすぐに消えてしまったことへの名残惜しさが、私の心に影を落とす。