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いつものことなんだけれど、朝からこんな美味しいものを食べられるなんて……カフェに出すものを試食できるのは彼女の特権だ。
「うれしいです……。これ、カフェにも出すんですよね?」
「え? あ、うん……そのつもりだけど」
「もう絶対に大ヒット間違いなしですね!」
「ありがとう。じゃあ、最後のおもてなし」
キッチンに戻った立花さんが何やら作業をし始める。
しばらく待っていると、立花さんが出してくれたものは──
「あ……」
「はい、キャラメルマキアート。好きだよね、これ」
片想い中、いつもオーダーしていたキャラメルマキアート。
表面には定番であるハートのラテアートも施されていた。
「ありがとうございます……」
一口飲めばカフェと同じ香りと味が広がる。
それなのになんだか、胸がいっぱいになる。
「美味しいです……相変わらず」
「ふふ、ありがとう。いつもオーダーしてくれてたからね。何か懐かしいよ」
「そうですね」
「最初はちょっとギャルっぽいなぁって思ってたけど……俺の顔見ると、いつもほんのり赤くなってたっけ」
「えっ、そ、そうですか!?」
「そうだよ。だから、つい……可愛く見えたな」
「え……っ」
「でもほら、俺……性格が、あれだから。意地悪したくなって、気づいてない振りしてたんだよね」
「ええっ、そうだったんですか!?」
それって……かなり私が恥ずかしいんだけど!
そんなにあからさまな態度取ってたんだ!
穴があったら入りたいとは、まさにこのことだ。
私が恥ずかしがっていると、立花さんが「そしたら」と話を続ける。
「いつの間にか、今日は新城さん来ないのかなって考えてたりして……。楽しみにしてたんだよね、次はどんな反応してくれるかなって。──で、来たときにはやっぱり同じ反応で……。そのとき、『可愛いな』って本当に思ったんだよね」
「え……」
「好きだよ、絢未」
「え……えぇ……は、はい……っ」
よ、よくわかんないけど……。
「私も、大好きです……」
「うん。──ね、絢未。よかったら、なんだけど……これからも、いろんな試食してくれる?」
「え?」
「あ、それと。さっきのスイーツのほうのパンケーキは、本当に絢未のためだけだよ。カフェに出す予定はない」
「え? えぇ……?」
こ、これって……もしかして──!?
全てを把握できた途端、心臓が急にバクバク言い出す。
そのうるさいほどの心音が、少しの沈黙を長く感じさせた。
「俺と結婚してほしい」
その一言が聞こえた瞬間、ただただ泣くことしかできなかった……それでも私はなんとか力を振り絞って──頷いた。
「はい……よろしくお願いします……!」