01意識
職員室での仕事を終え、まもなく下校時間が過ぎることを腕時計で確認すると、デスクから立ち上がる。
今日は施錠確認の当番だからだ。
職員室を後にしかけたとき、背後から「すみません、赤城先生」と申し訳なさそうにトーンを落とした男の声がかかる。
振り返りながら「はい?」と返事すると、本当に眉を八の字にした男性の顔が視界に入る。
「今日って、施錠確認でしたよね」
「ええ、そうですけど」
「僕も当番だったんですが、急な用事ができてしまったので、任せても構いませんか?」
「はあ。判りました」
確か、妻子持ちの人だったはず。
おそらくは家庭関連の用なんだろう。
家庭なんて持っていない私にはもちろん臆測の範囲でしかないが、少なからず無責任な発言はできない。
別に見回りの時間が増えるだけ、それに今日の仕事はひとまずやり終えてもいるから、承諾した。
ただの巡視なのに、男性はよっぽどの罪悪感を覚えていたのか、何度もぺこぺこ小さな頭を下げてから帰宅したのだった。
まあ、傲慢な態度で頼まれたら嫌なのも確かだけど、だからと言えあんなに腰が低い人が相手だとこちらに罪の意識を植えつけられてしまう。
ちょっとした疲労感を覚えつつ、巡回へ向かった。