16卒業

「もう、綾菜先生のこと、先生って呼ばなくていいんですよね」

「そうだね」

「じゃあ、何て呼びましょうか?」

「凌君の好きにしていいよ」

「じゃあ、淫乱綾菜ちゃんでどうですか?」

「冗談でもやめて……」

「あはは。じゃあ、綾菜でいいですね」


 凌君のさっきの台詞に不満を持った私は頬を膨らませる。


「じゃあって。仕方ない感じに言わないでよ」

「いやあ、綾菜さんの反応がおもしろくて。そういうとこ、好きです」

「けなしてるでしょ……」


 なんて言いながら、普通のカップルなら当然の会話がこんなに嬉しいことはない。


 至福に浸っていると、凌君もまるで同じことを考えていたかのような、楽しそうな笑い声が耳に届く。


「最上級の褒め言葉だったのになあ」

「嘘つかないの」

「嘘じゃないですよ。俺は綾菜の全部が好きだよ」


 凌君に顎を持っていかれ、唇にキスを落とされる。
 突然のことにきょとんとしてしまう私に対して、凌君はやってやったと言わんばかりの笑みを浮かべている。


 さっきの言葉遣いといい……もう。

 ──完敗だよ。


「凌君って人は……でも、好き」


 私の方からもキスをお見舞いしてやると、凌君の頬が紅潮した気がした。

The end.

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