03動揺へのノック

「綾ちゃん?」


 ハッ──声をかけられたことに肩で驚きの表現をしてから、顔を動かすと、そこには心配そうに私を見下ろす瀬戸君の姿があった。
 私自身どういった表情をしてるかもちろん判らないが、瀬戸君のリアクションを見れば、きっと何かに怯えている女の子のようなものなのかもしれない。


「どうしたの、こんなところで踞って……」


 怪訝の色を面に張りつかせた瀬戸君は腰を落として目線を合わせ、刺激せぬようにと普段の明るいトーンを押し殺した声を発する。


 彼はそれほどに私に気を遣って情報を引き出そうと努める。
 しかし、私の方は得たいの知れぬ恐怖、気づかれていないかという緊張のせいで、上手く言葉が──紡げない。
 さらには、今も尚、三日月さんの声が耳に届いて、体が震え、声も震える……。


「綾ちゃん、しっかりして」


 発言できないならイエスかノーかの簡単な質問に方針転換する瀬戸君。
 私は、その問いに頷くか、横に振るかでのジェスチャーで答える。


 ──原因は凌?
 頷く。
 ──二人がエッチしてるから、踞ってるの?
 再び頷く。
 ──止めた方がいいよね?
 大きく頷く。


 そうやって質疑応答を繰り返していくうちに、どうしたのかと状況を把握できていなかった瀬戸君も、私の様子、周辺の音などを含めて次第に飲み込めてきたみたいだった。


「綾ちゃん。とりあえず、更衣室に隠れといて。俺があの二人を止めてくるから」


 瀬戸君の優しい声かけに何度も首肯し、よろり、よろよろと覚束ない動きで更衣室に身を潜めた。

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